IP RIP ~チザイの雑談~

知的財産(Intellectual Property)の「かゆいところに手が届く(Reach the Itchy Place)」お話です。

著作『引用の要件」[リッキー]

3連休いかがでしたでしょうか。



今回は、引用について書きたいと思います。仕事柄、引用の要件を満たすかとアドバイスを求められることがあります。または、引用の要件満たせたいと思いますが・・・と注文をつけることもあります。注文を付けることが多いかもしれません。

 

引用の要件

 

引用の要件は、文化庁のホームページに記載があります。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/chosakubutsu_jiyu.html

 

他人の著作物を自分の著作物の中に取り込む場合,すなわち引用を行う場合,一般的には,以下の事項に注意しなければなりません。

(1)他人の著作物を引用する必然性があること。

(2)かぎ括弧をつけるなど,自分の著作物と引用部分とが区別されていること。

(3)自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること(自分の著作物が主体)。

(4)出所の明示がなされていること。(第48条)
(参照:最判昭和55年3月28日 「パロディー事件」)

 

 

はてなブログは、引用する時のためにダブルコーテーションマークのアイコンを用意しています。

 

必然性

 

引用するにはまず、引用する必然性が求められます。必然性とは何かといえば、なんで引用するのかということですね。つまり、引用する目的です。具体的には、報道、批評、研究、その他の目的が挙げられます。

 

その他の目的とは何かというのが気になりますが、学校の授業や業界団体の講義で、生徒・学生・受講者に、具体的なイメージを与えるために、建物や製品等を『紹介』することも含まれます。

企画



他にも、引用する著作物の量も関係してきます。例えば、ある本の半分以上の文章を複製して、報道、批評、研究等をするときです。本当に、半分以上も引用する必要あるのですかね?と、クエスチョンマークが浮かんできませんかね?こんな時は、要注意です。必然性はないかもしれません。

 

また、冷蔵庫の技術的な説明会で、いろいろな企業の冷蔵庫の写真をパワーポイントに貼りまくって、そのスライドが20スライド以上あるとしましょう(個人的に、今、新しい冷蔵庫が欲しいなと思っています)。

 

確かに、現在流通している冷蔵庫、または、過去からの冷蔵庫の変遷がよくわかるかもしれません。しかし、20スライド分も必要なのかという点です。スライドを作成した人にとっては、必要だと思ってスライドを作成していると思いますから、必然性の要件を満たすと思いがちだと思います。

 

ただし、アドバイスする立場としては、主観的でなく、客観的に判断をして頂きたいなと思います。必然性の要件を満たせないかもと指摘したくなります。

 

また、いろいろな規格のマークがあると思いますが、これをスライドに引用する資料を見かけます。

 

デザインが洗練されているので、アクセント代わりに使っているケースがあるのですが、これも、アドバイスする立場からは必然性の要件を満たせないので、使わないようにアドバイスしています。

 

明瞭区分性

 

鍵括弧を付ける等、自分の著作物と引用部分とが区別されることを、明瞭区分性(明瞭識別性)と略していうことがあります。

 

文章のときは鍵括弧を付けることが一般的です。画像のときは引用する画像の周りを枠で囲う等して自分の著作物とは異なることを示すことができます。

 

画像の引用が多いのはプレゼンテーション用のスライドを作成する時と思いますが、画像の周りを枠で囲うと多くの場合は、ダサくなるように思います。そうすると、枠で囲いたくないなというのが人情です。

 

アドバイスする立場としては、枠で囲ってくださいとアドバイスしてしまうのですが、内心、枠で囲うとダサくなるからやりたくないですよねと同情してしまいます。

 

ただし、ルールを厳守することが必要です。ダサくなるからというなら、そもそも引用するのを断念して頂くか、ご自身でそれに相当するものを作成して頂くしかないですね。

 

主従関係

自作する人



引用するときには、自分の作成する著作物が主で、引用する著作物が従でなくてはなりません。例えば、100頁の文章で、60頁が他人の著作物からの引用で、残りの40頁が自分で作成した著作物だとしましょう。

 

文章量の関係から、自分で作成した著作物が主とは言い難いのではないでしょうか。

 

もちろん、自分の意見・主張が重要なのだから、量に関わらず、自分の著作物が主だと主張することもできるでしょう。

 

しかし、この主従関係では、質だけでなく、量も考慮されます。このため、アドバイスする立場としては、量でも自分の著作物が主だと主張できるように、自己の主張を厚くしましょうとアドバイスします。

 

出所の明示

 

書籍からの引用であれば、書籍のタイトル、著者、引用する頁の記載、発行所等の記載が必要です。

 

インターネットからの引用であれば、URLの記載が必要でしょう。

 

必然性、明瞭区分性、主従関係と比較して、出所の明示をご存知の方が多い様に思います。しかし、そのような中でも、出所の明示をしていない資料を見かけます。

 

日本人は仕組みを作るよりもコンテンツを作ることがうまいとも思います。コンテンツを作成する人には欠かせない知識だと思います。義務教育の中で、掛け算の九九のように覚えていただきたいものです。

 

 

まとめ

 

引用の要件をご説明しました。必然性、明瞭区分性、主従関係、出所の明示について、自分の経験から、簡単に事例を紹介しつつ、どのようなアドバイスをしたかも記載しました。ご自身で、他人の著作物を引用して新たな著作物を作成する場合に、ご参考になる箇所があれば幸いです。

続・SNSで新規性喪失?! 注意点まとめ【MI】

こんにちは。MIです。

連日不安定な天気でモヤモヤしますね。。。息子も外でサッカーができず悶々としています。こんな時こそ家で勉強して欲しいところですが。。。

さて今回は、前回に引き続き「新規性喪失」について書き残したことを書いていきたいと思います。リスクの再確認ということで参考になればと思います。よろしくお願いいたします。

 

↓前回の記事はコチラ

discussiong1.hatenablog.com

 

 

<注意点1>「行為」ごとの申請が必要

「特許(意匠登録)を受ける権利を有する者の行為に起因」するものとして「新規性喪失の例外規定」の適用を受けるためには、原則として行為ごとに申請(証明書への記載)が必要になります。

例えば、以下のような場合、原則として全ての公開行為の特定(場所、URL、日付等)が必要になります(これが大変!)。

  • SNSで繰り返し公開した場合(同一アカウントであってもURLが異なれば)
  • いろんな場所(一店舗だけでなく;ウェブサイト含む)で販売した場合
  • 同一商品を複数の展示会に出展した場合

一方、以下のような場合には、先の行為(赤字)について申請していれば、後の行為(青字)についての申請が不要となることもあります。

 

【パターン1】手続を行った発明と同一であるか又は同一とみなすことができ、かつ、手続を行った発明の公開行為と密接に関連する公開行為によって公開された発明

⇒(例) 権利者が同一の取引先へ同一の商品を複数回納品した場合における、初回の納品によって公開された発明と、2 回目以降の納品によって公開された発明


【パターン2】手続を行った発明と同一であるか又は同一とみなすことができ、かつ、権利者又は権利者が公開を依頼した者のいずれでもない者によって公開された発明

⇒(例)権利者が商品を販売したことによって公開された発明と、その商品を入手した第三者がウェブサイトにその商品を掲載したことによって公開された発明 

 

(補足)従業員(バイトさん等;特許を受ける権利を有しない者)が公開した場合は?

この場合は、事情によって対応が異なります。特許(意匠登録)を受ける権利を有する者が公開(SNS投稿等)を依頼した場合は、申請が必要になるでしょう。一方、従業員が無断で勝手に公開した場合、「意に反する公開」として申請なしで新規性喪失の例外の適用が受けられる可能性があります。

 

<注意点2>例外規定のないor適用条件が厳しい国もある

例えば、中国や欧州では、新規性喪失の例外規定の適用条件が厳しく(特定の展示会に限定される等)、実質的に適用を受けられない場合があります。

これは、対象国の法制がそうなっているので仕方がないと言えばそうなんですが、事前の説明を忘れる(各国でも日本同様の例外規定の適用が受けられるという誤解を与える)と、お客さんによっては揉めることがあるので注意したいところです。


<注意点3>本当に「発明」が公開された?

安全側から見ると、「商品の写真を出願前に公開してしまったので、とりあえず新規性喪失の例外申請をしておくか」ともなり得ます。これは「意匠」のときは当てはまるかも知れませんが、「発明」の場合はそうとも言い切れません。「意匠」は見ればすぐ分かりますが、「発明」はそうではないからです。

例えば、写真に何かの薬(錠剤)が写っていたからと言って、その成分が分かるでしょうか?

というわけで、特に「発明」については、新規性が喪失するレベルの公開かを検討することも重要です。単に製品が映り込んだレベルなのか、製品を見るだけで発明のポイントが分かるのか、機能や使い方のレクチャーが併記されていないか、検討してみましょう。前の記事でも書きましたが、申請すること自体のリスクもあります。

 

おわりに

以上、2回にわたり「新規性喪失の例外」について考えてきました。

ホントに最近この話題についてお客さんに説明する機会が増えています。立場上、安全側(申請をする)でお話をすることが多いですが、そうするとどうしても申請費用が追加になるので、いい顔をされないことも多いです。。。

個人的には、こまめにお客さんのお話を聞きに行くことで、公開前や公開予定の発明を事前に把握することも有効かなと思っています。このご時世ですが、対面の打合せをあえて増やしています。

また、今回記事を書くにあたり特許庁の資料を参考にしましたが、是非SNS関連の事例も追加して欲しいと思います。中小企業の方には「学会発表」の事例よりもSNS関連の事例の方が身近です。

本日も最後までお読みいただきありがとうございました!

 

 

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弁理士「タイムチャージを意識した働き方」[らるご~]

この記事を書いている本日7月3日は、本年度の弁理士試験の論文式筆記試験の日。受験生の方はお疲れ様でした。特許事務所勤務の弁理士らるご~です。

最近自分の働き方を顧みて、実は結構タイムチャージを意識して働いていることに気付きました。そこで今回は、この「タイムチャージを意識した働き方」について書いていきます。

 

タイムチャージとは

ご存じの方も多いと思いますが、タイムチャージとは、【自分の1時間当たりの単価】【その案件を仕上げるために費やした時間】を乗じて算出される報酬額のことです。

例えば、【自分の1時間当たりの単価】が3.5万円/時間で、【その案件を仕上げるために費やした時間】が4時間であった場合には、14万円(=3.5万円/時間×4時間)が弁理士への報酬額としてお客さんに請求されます。私が勤務している特許事務所では、(A)タイムチャージ(時間的要素)で報酬額が決定する案件と、(B)作成した書類の枚数等(量的要素)で報酬額が決定する案件と、があります。

 

(A)タイムチャージ(時間的要素)で報酬額が決定する案件の場合

(A)案件の場合、費やした時間が延びるほど、多くの報酬額をクライアントに請求できますが、いたずらに高額の請求を行えば、クライアントからの信用を落とすことになります。そこで、私の場合は、依頼された案件に本格的に取り掛かる前に、予め費やす時間を見積もることにしています(Ex:これくらいの資料量ならだいたい〇時間)。その理由は、(ある程度までは)費やした時間の長さに比例して仕事の質は向上していきますが、ある程度の時間を超えると、それ以上は自己満足の世界に入っていくと考えているからです(自論です)。つまり、事前の見積もりによって、自己満足の世界に入ることを防止するとともに、見積もり時間内に仕事を終わらせねばという使命感で仕事の効率アップを図るようにしています。ただ、いつも見積もった時間通りに仕事が終わるわけではなく、見積もりの時間より長くなってしまうこともしばしばですが。

 

(B)作成した書類の枚数等(量的要素)で報酬額が決定する案件の場合

(B)案件の場合、量的要素で報酬額が決定されますが、このときも自分の中では、タイムチャージを意識して仕事をするようにしています。具体的には、例えば、量的要素から最終的に30万円程度の報酬額となった案件の場合、その案件を15時間で仕上げていれば【自分の1時間当たりの単価】2万円/時間、10時間で仕上げていれば【自分の1時間当たりの単価】3万円/時間となります。(B)案件に対応する際には、このような時間単価を適宜意識しています。個人的な感覚としては、(A)案件と比べて(B)案件の方が、【自分の1時間当たりの単価】は低くなる傾向にあるため、仕事を仕上げた後の自己評価はその点を考慮するようにはしています。その点を考慮しておかないと「うわ…私の1時間当たりの単価、低すぎ…?」となって凹む場合があるからです。

        口を抑えてショックを受けている女性のイラスト

◆まとめ

以上、「タイムチャージを意識した働き方」でした。【自分の1時間当たりの単価】をあまり意識し過ぎると、ケチな仕事の仕方になりそうではありますが、そうした意識を持つことで、自分の時間の安売り防止や仕事効率の向上につながると考えています。と、こんなことを書いておきながら、自分の場合、上述したように「見積もりの時間より長くなってしまうこともしばしば」のため、これを機に自戒せねばですね。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

「弁理士の受験者数の減少について」【マータ】

みなさま、こんにちは。マータと申します。

f:id:discussiong1:20211012012531p:plain マータ(博士/弁理士) (@b8L18UnY7nPd5NC) / Twitter

 

最近よく、弁理士の受験者数が減った」という話を耳にします。

会派で口述練習会を開いても、「受験生よりも試験官役の先生の方が多かった」、という話もあるくらいです。

こういう話を聞くたびに、「じゃあ、他の士業ってどうなんだろう?」といつも思っていました。

そこで、今回は、弁理士を含めるいわゆる8士業について、2012年~2021年の10年程の間に受験者数がどれくらい変化したか見てみました。

 

8士業(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A3%AB%E6%A5%AD

いきなりですが、結果は下記の通りです。

今回調べた全ての資格試験の受験者数が十年前に比較して減少していました。
原因としては、資格によってもそれぞれだと思いますが、例えば下記のようなことが考えられるのではないでしょうか?

 

●資格を取ったから一生安泰という世の中ではない。
●有資格者が飽和状態で今後仕事を得られるか不安。
●資格試験に時間や資金を費やす余裕がある人が減少した。
●共働き世帯の増加。
●今後も仕事があるか不安(AIによる代替など)
●その他、受験制度上の問題。

などなど。

 

ちなみに、日本の生産年齢人口※は、2012年(約8055万人)から2021年(約7450万人)にかけて、7.5%ほど減少しているようなので、人口減少の影響もあるのかもしれません。

※生産年齢人口
各国の国内で行われている生産活動に就いている中核の労働力となるような年齢の人口のこと。日本では15歳以上65歳未満の年齢に該当する人口を指す。

生産年齢人口 - Wikipedia

 

まとめ
今回は、ここ10年ほどの各資格試験の受験者数の変化について調べました。どの資格も受験者数が減少しており、少しさみしい結果となりました。一方で、受験者数が減るということは、合格すればそれだけレアな存在になれるということなので、さらに腕を磨くことにより市場価値・希少価値の高い人材になれるとも言えます。自分も、これからも自己研鑽を積み、より世の中に必要とされる人材になりたいと思います。

その他
今回の結果は、1年刻みで調べたわけではないので、試験によっては下げ止まっていたり、回復基調にあるものもあるかもしれません。その他、データに間違いがある場合などはご指摘頂けると大変ありがたく思います。

 

参考にしたサイト

弁理士としての働き方と、その将来性を考える │ 資格スクエア MEDIA

平成24年度弁理士試験結果 « 日本弁理士会九州会 弁理士は知的財産の専門家です!

司法書士試験の受験者数の推移を解説!減少傾向の理由は?|アガルートアカデミー

行政書士試験の合格率 - 行政書士試験について【行政書士試験!合格道場】

【最新版】税理士の人数は何人くらい?登録者数や受験者数を徹底紹介!|公認会計士・税理士・経理・財務の転職、求人ならレックスアドバイザーズ

第53回(令和3年度)社会保険労務士試験についての公開された情報から読み解くもの② | 社労士受験勉強.net

【2021年度・令和3年度】土地家屋調査士の試験内容と試験日・申し込み スケジュール|アガルートアカデミー

司法試験の受験回数と合格率の関係は?最短で合格する重要性について徹底解説!│資格スクエア MEDIA

https://jqos.jp/kokka/kaijidairishi

海事代理士試験の合格率

図表1-3-3 労働力人口・就業者数の推移|令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-|厚生労働省

統計局ホームページ/人口推計/人口推計(2021年(令和3年)10月1日現在)‐全国:年齢(各歳)、男女別人口 ・ 都道府県:年齢(5歳階級)、男女別人口‐

著作『著作権契約書作成のミカタ』[リッキー]

こんにちは。関東が一番先に梅雨入りし、11日に九州も梅雨入りしたいみたいですね。13~15日あたりには中国・四国~東海地方が一斉に梅雨入りしそうなようです。

紫陽花(いらすとや)



著作権等に関する契約は口頭による契約が多いようで、トラブルも絶えないようです。そこで、文化庁が素晴らしいシステムを公開してくれているので、その紹介をしたいと思います。詳しくはこちらへ

https://pf.bunka.go.jp/chosaku/chosakuken/c-template/index.php

 

文化庁 著作権契約書作成支援システム

出典:文化庁 著作権契約書作成支援システム(https://pf.bunka.go.jp/chosaku/chosakuken/c-template/index.php



 

何といっても、インターフェースがとてもいいと思います。実際に使ってみましたが、入力欄に例示が示されていて、どんなことを入力すればいいのか、迷いなく契約書のひな形を作成することができる点にあると思います。

 

講演、上演会、原稿執筆等、契約の場面に合わせて、適切な契約書雛形が作成されるようになっています。例えば、イラスト作成の依頼を受けた場面に合わせて、著作権契約書の雛形を作成してみました。

著作権契約書 作成例

よくあるのは、例えば、イラストの作成を依頼して、「作成者は、作成したイラストに関するすべての著作権を依頼者に譲渡する。」のような一文を入れて、翻訳権、翻案権、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利についても、譲渡がなされるという誤解です。

 

「すべての著作権」と契約書に書いたのだから、当然、翻訳権、翻案権、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利について譲渡がされると考えるのが素直な感じがします。

 

しかし、著作権法では、翻訳権、翻案権、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利について譲渡する時には、これらの権利を譲渡することを明示しなければならないこととしています。

 

ですから、単純に「すべての著作権」と契約書に書いただけではだめなのです。

 

また、依頼者としては、例えば、翻訳の予定があるのであれば、翻訳権の譲渡について契約書に明記するのを忘れてはいけません。また、作成者(著作権者)としては、本当に譲渡していいのか熟考する必要があります。

 

また、著作者人格権の同一性保持権に関して、忘れがちなことがあります。それは、イラストなどの改変をするに当たり、著作者人格権を行使しないとの契約を結ぶことです。

 

依頼者としては、そのイラストの使用を想定している範囲で、サイズを変えたり、色調を変えたりする場合があることがあらかじめはっきりしているときには、サイズを変えたり、色調を変えたりすることについて著作者人格権を行使しないとの契約を作成者と結んでおくべきです。同一性保持権侵害で訴えられる可能性があります。

 

また、作成者としては、作成したイラストについてこの部分は変えられたくないとかこだわりの部分があるかと思います。依頼者の利用態様に照らし、許容できる範囲で著作者人格権を行使しないとの契約を結ぶようにするとよいでしょう。ただし、許容できない改変等についてはこのような契約を結ぶべきではありません。

 

契約書作成支援システムでは、これらの部分をフォローするように契約書の雛形を作成してくれます。しかし、雛形ですので、これで万能ということはありません。そのままでは、だいぶ薄い契約書になるので、不足分に関してはご自身で追加して頂くことが必要です。

 

翻訳権、翻案権、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利や著作者人格権の不行使についても、相手方との交渉でいろいろと条件が追加されると思います。より詳細な契約の中身については弁理士等の専門家に相談するとよいでしょう。

 

文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン

 

5月の下旬からパブリックコメントが募集されています。

https://www.bunka.go.jp/shinsei_boshu/public_comment/93710701.html

 

コロナ渦で外出制限がされたこともあり、実演家等の方々は特に大変だったかと思います。そこに、あまり契約を書面で結ぶという慣習が少なかったのか、さらにご苦労があったようです。そのため、当ガイドライン案が示されています。

 

ここでも著作権に関する契約書の雛形が示されていますので参考になると思います。また、注釈に契約時に気を付けるポイントなどもコメントされていますので当ガイドライン案が大変参考になるかと思います。

 

さらなる情報源

 

こちらでコンテンツに関する多くの情報収集ができるものと思いますので、ご参考にしていただければと思います。

 

コンテンツ東京2022

https://www.content-tokyo.jp/?utm_source=lst&utm_medium=cpc&utm_campaign=&gclid=Cj0KCQjw-pCVBhCFARIsAGMxhAfUtUwsImSq545xnfff16HD9fZP3t1BJkhQYfDkyQhvDdQ9vUq3TAcaAg9iEALw_wcB

 

まとめ

 

文化庁著作権契約書作成支援システムと分化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドラインをメインに紹介しました。どちらも著作権法27条、28条に関する譲渡や著作者人格権の不行使等、契約実務で問題となりやすい部分を手当てした契約雛形を示しています。実務家の方々には、大変参考になると思いますので、ご活用頂きたいなと思います。

 

 

特許&意匠「実は恐ろしい新規性喪失 ~SNSやクラウドファンディングでの先行公開~」【MI】

こんにちは、MIです。

最近、個人や中小企業の方からの出願依頼が続きました。コロナ禍も長引く中、本業とは別の事業や本業の知見を生かした新しい事業の立ち上げを検討されている方が増えていると感じます。

そんな中で、今日は「新規性の喪失」について考えてみたいと思います。いきなり仰々しい用語が出てきましたが、要は「SNSクラウドファンディングで先行公開した場合のリスク」について知っていただきたいということです。お付き合いよろしくお願いいたします。(個人や中小企業の方向けにザックリと分かりやすくお話ししようと思います。)

 

 

先行公開による「新規性の喪失」

最低限のハードルとしての「新規性」

まず、特許や意匠(以下、特許等といいます。)の登録のためには、最低限越えるべきハードルとして「新規性」が必要です。要するに、登録の対象となる「発明」や「デザイン」が新しくないといけないということです。「既に世の中にあるものに対して、国が特定の者に独占権をあげてはマズいよね」ということです。

増えている特許等の出願前の公開(先行公開)

最近の、特に個人や中小企業の方の出願案件では、打ち合わせの際に「既に、SNSクラウドファンディングで公開したよ」という方が非常に多いです。そもそも、その反応が良かったから慌てて出願の相談に来たという感じです。確かに、出願には少なくないお金が掛かりますので、「世間の反応が良くなければ、出願しない」という判断はむしろ正しい気すらします。しかし、それ(先行公開)により出願が拒絶されるリスクが生じます

先行公開による「新規性の喪失」

具体的には、出願前に自分がSNSクラウドファンディングでした先行公開の内容によって、出願した発明やデザインに「新規性」がなくなってしまい、登録ができなくなってしまいます。これについて、出願後にはどうすることもできません。以下でお伝えする救済を受けるためにも、出願前の公開の有無をしっかり把握して、弁理士の先生につたえてください!

 

救済措置としての「新規性の喪失の例外」規定

「出願前に公開しちゃったら特許等は取れないの?!」というと、そうではなく、救済措置として「新規性の喪失の例外」規定があります。自らの行為または意に反する公開については、出願前1年以内の公開に限り、「出願時に例外規定の適用を受ける旨を願書に記載」して、「出願から30日以内に証明書面を提出」すれば、救済が受けられます。

 

「新規性の喪失の例外」規定があっても残るリスク

「救済措置があるんだ。一安心。」というとそうでもなく、やはりある程度のリスクが残ってしまうと思っています。以下に挙げてみます。

リスク1:公開行為が漏れる

私の場合、例えば、以下のような表を作って、ネット上での公開行為を全て洗い出してもらいます。(もうすぐ梅雨時、ということでテルテル坊主の画像にしてみました。)

それでも、漏れるときは漏れてしまいます。漏れてしまった公開行為(「新規性喪失の例外」規定の適用を受けなかった公開行為)については、当然救済を受けられないので、特許等の出願が拒絶される根拠になってしまいます。

特に、SNS(インスタやTwitter)でたくさんの画像をアップしていると、全てを漏れなく拾い上げるのはなかなかの労力が必要になります(画像が数百枚になることも、、、)。

リスク2:やぶ蛇

「新規性喪失の例外」規定の適用を受けると、その旨が公報に記載されます。そのため、特許等が登録になった後、その特許等を潰したい人は「ある公開行為があったなら、他にもあるんじゃないか?!」と、救済対象になっていない公開行為(上記「リスク1」で言う「漏れてしまった公開行為」)を探すことがあります。何も書いていなければそこまで探さないけど、、、という時があり、やぶ蛇になります。

リスク3:費用が嵩む

これはリスクとはちょっと違うかもしれませんが、上記「リスク1」のところでも言ったように、SNSでの公開は多数回に亘ることが多く、そのため書類の作成にも時間が掛かります。また、特に動画だと、どこで何を言っているのかを確認するために時間が取られるので、費用の請求も高額にならざるを得なくなってしまいます

 

まとめ

さて、こうやって考えてみると、やはりベストは「公開前に出願を!」ということになるんですが、資金に余裕のない個人や中小企業の方は「反応の良くない(需要がない)モノについてまで出願はできない!」というのも本音だと思います。そうなると、上手く救済措置(「新規性喪失の例外」規定)を使っていくのも必要になると思います。

また、救済を受けるべき公開行為の洗い出しには、出願される方と弁理士とのコミュニケーションが重要になります。私としては、こういったリスクについて広く知っていただいた上で、早めに弁理士さんに相談していただき、どういう対応がベターなのかを一緒に考えられるようになるといいかなと思います。

本日もお読みいただきありがとうございました!

 

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弁理士「緊急出願案件」[らるご~]

◆緊急出願案件とは

緊急出願案件を特許事務所に依頼する場合として、例えば、以下のような場合があります。

・近日、学会発表があるが、その研究内容に関して未出願であった。

・近日、商品発表があるが、商品に含まれる発明に関して未出願であった。

つまり、緊急出願案件は、学会(商品)発表前に出願を完了するために、短い期間の中で記載内容の質を維持しつつも迅速に対応しなければならない案件なのです。

        

◆緊急出願案件は、ある日突然やってくる

上記した性質上、緊急出願案件は、ある日突然やってきます。これまでに私は何度も緊急出願案件を担当してきましたが、毎度緊急出願案件がやってくると、そこからはヒリついた日々が始まります。出願までの残り日数は、比較的余裕の有る案件から絶望的に短い案件まで色々とありますが、直近で担当した案件では、発明の内容に関する打ち合わせから指定された出願日までの日数が10日間(土日含む)でした(通常は打ち合わせから出願日まで1~2ヶ月程度)。この案件、打ち合わせ終了時点では未だ発明が固まっていなかったものの先行して明細書の執筆を開始し、後日に発明の内容が固まった案件でした。

 

◆緊急出願案件の良いところ?

緊急出願案件の良いところ?は、依頼者さん(発明者さんや知財担当者さん)と弁理士が指定の出願日に間に合わせるために、密に協力して仕事を進められるところです。1つの目標に向かってお互いが必死に仕事を進めるため、通常案件よりも達成感はマシマシです。また、ここだけの話、通常案件よりも短い期間で出願まで進むので、依頼から料金を請求するまでの期間が短いのも良いところです(出来高制の給料に即反映されるため)。特許事務所によっては、緊急出願案件の場合、通常案件の料金に加えて追加料金を請求するところもあるそうです。

 

◆まとめ

以上「緊急出願案件」でした。この業界に入って間もない頃、先輩弁理士緊急出願案件が来ても平然とこなしているのを見て、自分もいつかそうなれるように頑張ろうと思ったのが数年前。数年後、現在の自分は、その時の先輩弁理士と同じくらいの経験年数になったにも関わらず、緊急出願案件がやってくると、「今回は期日に間に合わないかもしれない…」と毎度頭を抱えています。もしかしたら、あのときの先輩弁理士も、心の中ではそう思っていても顔に出さなかっただけかもしれません。今回も本ブログをお読みいただき、ありがとうございました。

 

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