IP RIP ~チザイの雑談~

知的財産(Intellectual Property)の「かゆいところに手が届く(Reach the Itchy Place)」お話です。

商標&著作権「鬼滅の刃からの知財あれこれ」【MI】

鬼滅の刃」がすごい人気です。

 私も先日、親子で映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』を見に行ってきましたが、とてもよかったです!日曜日だったんですが、次の日の仕事に支障がでるくらいでした。

ということで、今回は「鬼滅の刃」ネタで知財のお話をしてみたいと思います。

鬼滅の刃」商標権と出願のタイミング

鬼滅の刃」でいくつかの商標権が取得されています(権利者:株式会社集英社)。

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出典:商標登録6208244号より

 ただ、一番出願が早いもので 2018/12/28 の出願です(商願2018-164557;上記商標登録6208244号)。

 連載開始が 2016/2/15 から(Wikipediaより)だとすると、その時点では出願されていなかったということになります。さすがの集英社さんも、全ての漫画について連載開始から商標出願をするわけではないようです。アニメ化も 2018/6/4 発売のジャンプで発表されています(放映は2019年4月から(Wikipediaより))ので、半年ほどのタイムラグがあります。

 確かにキャラクター自体は、商標権を取らなくても著作権である程度守れると思います。ただ、「鬼滅の刃」という言葉に著作物性があるかは微妙なので「人気が出てきた or これから力を入れる」というタイミングで文字を含む商標を取得して、保護を強化したというところでしょうか。

参考:下記URLの事件でも、キャラクターイラストが無断複製されたキーホルダーと登録商標が無断使用されたペンケースの販売等について、著作権法違反及び商標法違反の合せ技で逮捕されています。

https://www2.accsjp.or.jp/criminal/2020/1132.php

 

「鬼滅」関連のいろいろな商標出願

今年の6月に、集英社さんは鬼滅関連のいろいろな商標出願をしています。

  • 関連する言葉:「柱」「滅」「全集中」「鬼殺隊」「悪鬼滅殺」など
  • キャラクターの名前:「炭治郎」「禰豆子」「善逸」「伊之助」「義勇」
  • 羽織の柄(炭治郎(下記参照)、禰豆子、善逸、義勇、しのぶ、煉獄さん)

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出典:商願2020-078058号より

 面白いのは羽織の柄でしょうか。これらが登録になるのか否か、注目してみたいです。個人的には、特に上記の炭治郎の羽織の柄などは「地模様」(商標審査基準で原則登録NG(3条1項6号に該当))と見えるので、なかなか難しいと思います。あとは、日本古来の柄という点も問題になるでしょうか。ただ、明らかにコピー品と思われるものが跋扈しているなか、集英社さんの気持ちも分かります。いち弁理士としては、今後の展開に期待しています。

 

聖地巡礼その1<一刀石(奈良市)>

鬼滅ブームにより、いろいろな場所が聖地として観光スポットになっているようです。

先日テレビを見ていて面白いと思ったのは、奈良市の「一刀石」です。

一刀石 | 奈良市観光協会サイト

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出典:上記サイトより

あの名シーンが甦ってきます。そんな中、こんなことを考えました。

「一刀石」は著作物か?

 自然物であれば著作権は発生しません。ただ、上記サイトを見ると一刀石は「石舟斎(柳生宗厳)が修行中に天狗と試合を行い、一刀のもとに天狗を切り捨てたところ、2つに割れた巨石が残ったという逸話が。」とあります。となると、ある意味石舟斎の著作物(彫刻的な)ということも言えるかもしれません。

「一刀石」が著作物だとしたら利用(撮影してSNSにアップ等)できない?!

 大丈夫です。仮に一刀石が石舟斎の著作物だとしても、彼は1606年5月25日に亡くなっています(Wikipediaより)。著作権は原則「著作者の死後70年まで」存続します。既に彼の死後70年が経過しているので著作権は切れています。

※といっても、1606年時点では現行の著作権法は存在していません(旧著作権法は1899年(明治32年)、現著作権法は1970年(昭和45年)に制定されました)。「仮に」ということで、この考察を楽しんでいただければと思います。

(保護期間の原則)
第五十一条 著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる。
2 著作権は、この節に別段の定めがある場合を除き、著作者の死後(共同著作物にあつては、最終に死亡した著作者の死後。次条第一項において同じ。)七十年を経過するまでの間、存続する。

 また、屋外に設置されている彫刻等は、複製してたくさんの人に提供したり、販売目的で複製したりする等でなければ、利用することができます。著作権が存続していたとしても「一刀石(屋外に恒常的に設置されている彫刻)」を撮影してSNSにアップすること等は可能です。

(公開の美術の著作物等の利用)
第四十六条 美術の著作物でその原作品が前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。
一 彫刻を増製し、又はその増製物の譲渡により公衆に提供する場合
二 建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合
三 前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合
四 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合

 

聖地巡礼その2<八幡竈門神社(別府市)>

 別府市にある「八幡竈門神社」も、その名称や言い伝え(「鬼が造った九十九段の石段」など)から聖地化されて話題になっているようです。

八幡竈門神社公式ホームページ

 また、八幡竈門神社の拝殿の天井には龍の絵が描かれており、これが炭治郎が使う「生生流転(せいせいるてん)」という技を彷彿とさせるところも人気のようです。そんな中、こんなことを考えました。

入場料払ったら中のモノは自由に撮影していいのか?

 そうは言い切れません。というのも、著作権は所有権と別に存在するからです。ちょっとややこしいですが、、、まず絵画等の「所有者」は原作品を公に展示することができます。

(美術の著作物等の原作品の所有者による展示)
第四十五条 美術の著作物若しくは写真の著作物の原作品の所有者又はその同意を得た者は、これらの著作物をその原作品により公に展示することができる。

 しかし、「展示」はできますが、著作権(複製権など)を持っていない場合、たとえ自分の所有している絵画でも、写真に撮ってSNSにアップしたりはできません。こういった事情も頭の片隅に置いておいて、許可されていない撮影は控えることが大切だと思います。

写真に著作物が写り込んでしまったら? 

 これはよくありますね。例えば、「ディズニーランドで子供の写真撮ったら、後ろにミッキーが映ってるけど、この写真をSNSにアップしても大丈夫?」ということです。

 現在は平成24年の法改正によって一定の「写り込み」はOK(著作権侵害とならない)とされています。 

いわゆる「写り込み」等に係る規定の整備について | 文化庁

 要するに、上の例で言えば、撮影対象(子供)から分離することが困難な事物(テーマパークの背景)等に存在する付随対象著作物(キャラクター)について、当該撮影またはその写真の利用(SNSへのアップなど)は侵害行為に当たらないということです。

 ただ、これには条件があって、例えば、「(子供でなく)キャラクターを本来の撮影対象としている場合」や「故意にキャラクターを写り込ませた場合」などは対象外です(侵害になります)。

 「八幡竈門神社の龍の絵」は著作権者の許可があると思うので撮影等OKですが、撮影の際に原作の該当ページ(炭治郎が「生生流転」を繰り出している場面)を一緒に写り込ませるとかはダメだと思います。

 

まとめ

 長くなってしまいましたが、楽しく考えさせていただきました。これも「鬼滅の刃」という作品の力のおかげでしょうか。こんな感じで、今後も身近なところから知的財産について考えていきたいと思います。第2期のアニメもとても楽しみです!

(本文中のURLや著作権法条文の最終確認日は2020/11/1です。)