IP RIP ~チザイの雑談~

知的財産(Intellectual Property)の「かゆいところに手が届く(Reach the Itchy Place)」お話です。

著作『コスプレと著作権』[YO]

1月の下旬に、コスプレに関する報道がいくつかありました。

記憶に残っている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 

https://www.nikkansports.com/general/news/202101230000859.html

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/4e03185b5a6b1ec84dc075c652a47b2f929922c9

 

2月にも報道がありました。

 

https://cubeglb.com/popmedia/2021/02/11/cosplay/

 

「非営利目的なら、コスプレをしても著作権法に抵触しない」と報道されているのですが、本当でしょうか?コスプレと著作権、少し長くなりますが、かゆい部分に手が届くお話にしたいと思います。

 

ベネフィットは、法律をよく理解した上でコスプレを楽しめるようになるということでしょうか。それでは、宜しくお願い致します。

 

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1.キャラクターと著作権

2.キャラクターの絵と複製権と翻案権

3.「非営利目的なら、コスプレをしても著作権法に抵触しない」のか?

4.コロナ渦を考慮、オンラインでのコスプレはどうなのか?

5.解決策はあるのか?

6.まとめ

 

1.キャラクターと著作権

 

コスプレの話なはずなのに、いきなりズレてませんか??と思われるかもしれません。コスプレとキャラクターの関係は、ウィキペディアによれば以下のようになります。

 

コスプレとは漫画やアニメ、ゲームなどの登場人物やキャラクターに扮する行為を指す。

 

 

 

当たり前かもしれませんが、コスプレとキャラクターに関連性がありました。また、ウィキペディアでは登場人物とキャラクターは同列に扱われているので、簡単のためキャラクター絞って考えてみましょう。キャラクターに著作権はあるのか?そのためには、キャラクターが著作物である必要があります。最高裁判決では、キャラクターとは以下のように定義されています。

 

漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象概念(最判平9・7・17民集51巻6号2714頁―ポパイネクタイ事件)

 

 

 

著作権法上の著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)とされています。最高裁判決によれば、抽象概念は、「表現したもの」に当たりません。キャラクターを「表現したもの」とは、キャラクターの書かれた紙、キャラクターの書かれた鉛筆や筆箱、と言ったらイメージしやすいかもですね。

 

つまり、キャラクターは著作物でないから、キャラクターに著作権は発生しないのですね!

 

それじゃあ、コスプレと著作権に関係はないんだなって思うのは、勇み足です。ご注意を。キャラクター=コスプレではないですからね。また、著作権は、支分権の束とも呼ばれていて、いろいろな権利がまとまって著作権と呼ばれているので、ひとつの支分権についてOKだからといって、他の支分権についてもOKとはならないのがややこしいところなのです。

 

2.キャラクターの絵と複製権と翻案権

 

キャラクターは、著作物ではないが、キャラクターの絵は、著作物であることはご理解いただけたと思います。まず、複製権と翻案権について定義を見てみましょう。

 

第21条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。 

 

第2条1項

十五 複製 印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為を含むものとする。

イ 脚本その他これに類する演劇用の著作物 当該著作物の上演、放送又は有線放送を録音し、又は録画すること。

ロ 建築の著作物 建築に関する図面に従つて建築物を完成すること

 

第27条 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。

 

 

ちなみに、翻案とは、ウィキペディアによれば、芸術作品・エンターテインメント全般において、既存の作品を原案・原作として、新たに別作品をつくる行為を指す、とのことです。

 

でわ、キャラクターの絵をもとにコスプレの衣装を制作することは複製に当たるのでしょうか?

 

キャラクターの絵をコピー機で紙にコピーしたら、複製だけど、コスプレの衣装を制作するときにコピー機使ってないから、複製をしたことにはならないよね?って思う方もいらっしゃるかもしれません。専門書(半田=紋谷・ノウハウ31頁〔斉藤博〕)によれば「原画と複製物との間に必ずしも完全な同一性がみられなくとも,原画に表された登場人物の容ぼう,姿態,性格等の本質的な特徴が複製されていると認められれば原画の複製になる」ようです。

 

翻案については、キャラクターの絵をもとにコスプレの衣装を制作することは、ばっちり、定義にあてはまっていそうです。絵と衣装は、素材が違いますし、2次元か3次元かという違いもあります。別作品と言って間違いないでしょう。

 

つまり、キャラクターの絵をもとに、コスプレの衣装を制作することは、複製、翻案の両方に該当するということです。キャラクターの絵の著作者に無断でコスプレの衣装を制作すれば複製権、翻案権の侵害を問われることになります。

 

3.「非営利目的なら、コスプレをしても著作権法に抵触しない」のか?

 

さて本題です。「非営利目的なら、コスプレをしても著作権法に抵触しない」んでしょ?おそらくこれは、下記の条文を根拠にしていると思われます。

 

38条 公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下、この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りではない。

 

 

 

読んでの通りと思いますが、「複製」、「翻案」の文字は見当たりません。いくら非営利でも、「複製」、「翻案」は、この条文と関係がいないのです。

 

それでは、何を前提として、「非営利目的なら、コスプレをしても著作権法に抵触しない」と報道されたのでしょうか。実は、「翻案」は、著作権法第28条と関連が深いのです。

 

28条 二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。

 

 

 

どういうことなのでしょうか?具体的には、コスプレの衣装が二次的著作物になるということです。そして、コスプレの衣装の制作者は、コスプレの衣装の著作者となり、上演等の著作権を有します。さらに、キャラクターの絵の著作者も、コスプレの衣装の著作者と同じく、コスプレの衣装について上演等の著作権を有することになる。

 

コスプレの衣装を着て渋谷の交差点に出歩いても、非営利目的であれば(正確には、非営利目的、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けなければ)、上演権(著作権の1つ)を侵害しないので、コスプレの衣装を着て渋谷の交差点に出歩くこと自体は著作権法に抵触しないということです。繰り返しになりますが、コスプレ衣装を制作することは、依然として、複製権、翻案権の侵害を問われることになります。

 

それならば、自分でコスプレ衣装を制作せずに、買ってきたコスプレ衣装であれば問題ないのでしょうとも思えます。しかし、販売されているコスプレ衣装が全て適切に著作権の処理(使用料等を著作権者に支払う等)されているわけではありません。依然として、複製権、翻案権の侵害を問われることになります。

 

それでも、キャラクターの絵の著作権者は、コスプレイヤーみなさんのコスプレを楽しでいるでしょー。

 

4.コロナ渦を考慮、オンラインでのコスプレはどうなのか?

 

パンデミックに襲われ、コロナが流行して1年が経とうとしています。生活様式も、無理矢理変化を強いられました。コスプレ衣装を着て渋谷の交差点を歩くのは、昨今の状況下では難しいでしょう。その代わり、オンラインという選択肢(https://www.worldcosplaysummit.jp/2020/)が出てきましたが、著作権制限規定はあるのでしょうか。

 

第38条

3 放送され、又は有線放送される著作物(放送される著作物が自動公衆送信される場合の当該著作物を含む)は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、受信装置を用いて公に伝達することができる。通常の家庭用受信装置を用いてする場合も、同様とする。

 

 

コスプレ衣装を着てその姿を会議アプリ等で映すことも、著作権制限規定に入りそうませんでも、投げ銭もらっちゃダメです、と言ったところでしょう(記載に誤りがありました。すみません。)

 

5.解決策はあるのか?

 

そんなに侵害侵害って言ってたらコスプレできないじゃないか!!!

その通りなのです。日本は、法治国家であるから、法律を守らねばなりません。支分権が数多くあり、判断の難しい著作権について、ルールを整備しようというのが上記の報道なのです。実際にどこまで、話は進んでいるのでしょうか?

 

内閣府知的財産戦略本部には、下記の資料が掲載されています。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kousou/digital_kentou_tf/dai6/gijisidai.html

 

 

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なんか難しいですね。これは、3つの案のうちの1つです。おおまかなイメージは、ブルーレイディスクなどと同じではないでしょうか。ブルーレイディスクや録音機器には、私的録音録画保証金制度により、保証金が上乗せされています。その保証金が一定の割合で、著作者に還元されており、同じような仕組みになるのかと思われます。

 

6.まとめ

 

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キャラクター自体は著作物の対象にはなりませんが、キャラクターの絵は著作物です。キャラクターの絵については創作と同時に著作権が発生します。そして、キャラクターの絵をもとにコスプレ衣装を制作すると、複製権、翻案権(著作権の一部)が関わってきます。一方、著作権制限規定があるので、コスプレ衣装を着て渋谷の交差点などを歩くことは非営利かつ料金を受けない場合には、上演権(著作権の1つ)を侵害しません。それでも、複製権、翻案権については対象ではないので依然として侵害が問われる状況にあります。これを解消すべく、新なルールの制定が急がれています。

 

短めの報道でしたが、ほんの一部の話(赤枠部分)しかされていませんでした。なるほどと思えるところがあれば嬉しいです。