IP RIP ~チザイの雑談~

知的財産(Intellectual Property)の「かゆいところに手が届く(Reach the Itchy Place)」お話です。

特許&意匠「実は恐ろしい新規性喪失 ~SNSやクラウドファンディングでの先行公開~」【MI】

こんにちは、MIです。

最近、個人や中小企業の方からの出願依頼が続きました。コロナ禍も長引く中、本業とは別の事業や本業の知見を生かした新しい事業の立ち上げを検討されている方が増えていると感じます。

そんな中で、今日は「新規性の喪失」について考えてみたいと思います。いきなり仰々しい用語が出てきましたが、要は「SNSクラウドファンディングで先行公開した場合のリスク」について知っていただきたいということです。お付き合いよろしくお願いいたします。(個人や中小企業の方向けにザックリと分かりやすくお話ししようと思います。)

 

 

先行公開による「新規性の喪失」

最低限のハードルとしての「新規性」

まず、特許や意匠(以下、特許等といいます。)の登録のためには、最低限越えるべきハードルとして「新規性」が必要です。要するに、登録の対象となる「発明」や「デザイン」が新しくないといけないということです。「既に世の中にあるものに対して、国が特定の者に独占権をあげてはマズいよね」ということです。

増えている特許等の出願前の公開(先行公開)

最近の、特に個人や中小企業の方の出願案件では、打ち合わせの際に「既に、SNSクラウドファンディングで公開したよ」という方が非常に多いです。そもそも、その反応が良かったから慌てて出願の相談に来たという感じです。確かに、出願には少なくないお金が掛かりますので、「世間の反応が良くなければ、出願しない」という判断はむしろ正しい気すらします。しかし、それ(先行公開)により出願が拒絶されるリスクが生じます

先行公開による「新規性の喪失」

具体的には、出願前に自分がSNSクラウドファンディングでした先行公開の内容によって、出願した発明やデザインに「新規性」がなくなってしまい、登録ができなくなってしまいます。これについて、出願後にはどうすることもできません。以下でお伝えする救済を受けるためにも、出願前の公開の有無をしっかり把握して、弁理士の先生につたえてください!

 

救済措置としての「新規性の喪失の例外」規定

「出願前に公開しちゃったら特許等は取れないの?!」というと、そうではなく、救済措置として「新規性の喪失の例外」規定があります。自らの行為または意に反する公開については、出願前1年以内の公開に限り、「出願時に例外規定の適用を受ける旨を願書に記載」して、「出願から30日以内に証明書面を提出」すれば、救済が受けられます。

 

「新規性の喪失の例外」規定があっても残るリスク

「救済措置があるんだ。一安心。」というとそうでもなく、やはりある程度のリスクが残ってしまうと思っています。以下に挙げてみます。

リスク1:公開行為が漏れる

私の場合、例えば、以下のような表を作って、ネット上での公開行為を全て洗い出してもらいます。(もうすぐ梅雨時、ということでテルテル坊主の画像にしてみました。)

それでも、漏れるときは漏れてしまいます。漏れてしまった公開行為(「新規性喪失の例外」規定の適用を受けなかった公開行為)については、当然救済を受けられないので、特許等の出願が拒絶される根拠になってしまいます。

特に、SNS(インスタやTwitter)でたくさんの画像をアップしていると、全てを漏れなく拾い上げるのはなかなかの労力が必要になります(画像が数百枚になることも、、、)。

リスク2:やぶ蛇

「新規性喪失の例外」規定の適用を受けると、その旨が公報に記載されます。そのため、特許等が登録になった後、その特許等を潰したい人は「ある公開行為があったなら、他にもあるんじゃないか?!」と、救済対象になっていない公開行為(上記「リスク1」で言う「漏れてしまった公開行為」)を探すことがあります。何も書いていなければそこまで探さないけど、、、という時があり、やぶ蛇になります。

リスク3:費用が嵩む

これはリスクとはちょっと違うかもしれませんが、上記「リスク1」のところでも言ったように、SNSでの公開は多数回に亘ることが多く、そのため書類の作成にも時間が掛かります。また、特に動画だと、どこで何を言っているのかを確認するために時間が取られるので、費用の請求も高額にならざるを得なくなってしまいます

 

まとめ

さて、こうやって考えてみると、やはりベストは「公開前に出願を!」ということになるんですが、資金に余裕のない個人や中小企業の方は「反応の良くない(需要がない)モノについてまで出願はできない!」というのも本音だと思います。そうなると、上手く救済措置(「新規性喪失の例外」規定)を使っていくのも必要になると思います。

また、救済を受けるべき公開行為の洗い出しには、出願される方と弁理士とのコミュニケーションが重要になります。私としては、こういったリスクについて広く知っていただいた上で、早めに弁理士さんに相談していただき、どういう対応がベターなのかを一緒に考えられるようになるといいかなと思います。

本日もお読みいただきありがとうございました!

 

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