裁判例については、
最新の判決をいち早く解説する
等の能力を持ち合わせていません。
でも、こういう判例は、
知財に興味をもってもらうには
打って付けと思ってご紹介しています。
言い訳はこの程度にして、
今回ご紹介するのは、
令和4年(ワ)第11394号 不正競争行為差止等請求事件
です。
結論先出しです。
まとめに代えて本日の痒い所
- 棋譜は、原則として自由利用の範疇に属する情報です。
- 将棋も、チェスと同様に、文芸の範囲に属するでしょう。
本編
お付き合いいただける方へ
まずは、「棋譜」とは何か
確認しましょう。
棋譜(きふ)とは囲碁・将棋・チェスなどのボードゲームにおいて、互いの対局者が行った手を順番に記入した記録を指す。また同時に、棋譜が記入された用紙(つまり棋譜用紙)を意味する時もある。
「記録」と言う言葉がありますね。
事実の記録であると、
著作物に該当するのでしょうか。
著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
よく出てくる著作権法の条文ですね。
「記録」には、
思想又は感情を創作的に表現したもの
も含まれていそうですが、
単に記録しただけで、
思想又は感情を読み取れない
記録の仕方もあるように思います。
判決文にはどのように書かれているのでしょうか?
しかし、棋譜は、公式戦対局の指し手進行を再現した「盤面図」及び符号・記号による「指し手順の文字情報」を含むものと認められるところ(乙2)、本件動画で利用された棋譜等の情報は、被告が実況中継した対局における対局者の指し手及び挙動(考慮中かどうか)であって、有償で配信されたものとはいえ、公表された客観的事実であり、原則として自由利用の範疇に属する情報であると解される。
原則として自由利用の範疇に属する情報
とのことです。
利用許諾なしに著作物を利用する場合には、
日本で保護されているものか?
保護期間内か?
自由に使える場合かどうか?
を検討するのでしたね。
原則として自由利用の範疇に属する情報
ということは、
著作権の権利制限がなされて
自由に使える場合かどうか?
という場合は含んでいなさそうな気がします。
権利制限規定は、原則でなく、例外を規定
しているからです。
また、裁判で問題になっている棋譜については、
対局者も存命でしょうし、
著作権の保護期間を超えているから
自由利用ということでもなさそうです。
(そもそも対局者の著作物でもないかも・・・)
とすると、
日本で保護されているものか?
のところで、保護されるべき著作物
ではないから、原則として自由利用の範疇に
属する情報となるのでしょうか。
著作物でない場合は、(1)~(4)の
要件のどれかが欠けていそうです。
(1)思想又は感情を
(2)創作的に
(3)表現したものでない
(4)文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの
単に記録しただけでは、
創作性がなさそうです。
そうすると(2)の要件が欠けていますかね。
また、将棋などは、文芸の範囲に属すると
考えます。
だから、原則として自由利用の範囲に属する
のですね。
ちなみに、チェス連盟のHPには下記の記載が
あります。
チェスはその後、アラビアから中国、日本などへ伝わり、それぞれのローカル・チェスに姿を変えました。将棋とチェスは祖先が同じゲームだと言われています。一方、アラビアからヨーロッパに伝わったチェスは15世紀頃に現ルールが確立し、発展しました。その時期ヨーロッパで書かれた書物で現代にも通用するレベルのものがあります。その後、チェスが貴族、知識人の教養としてヨーロッパで広く普及し、文学、芸術の題材になったことはよく知られている通りです。
https://japanchess.org/chess-history/
文学、芸術の題材になったとあるから、
文芸の範囲に属するのですかね?
チェスは、将棋と似ていると考えられますから、
将棋も文芸の範囲に属するといっても
的外れではないと思います。
定めています。
連盟および主催社は共同して竜王戦の主催・興行について独占的な権利および利益を有しています。
とはありますが、判決文には、
同ガイドラインは、棋譜の利用権等を王将戦主催者が独占的に有する旨規定するが、王将戦主催者が、原告を含めた被告の実況中継の閲覧者の関与なく一方的に定めたものであり(乙2)、原告に対して法的拘束力を生じさせるものであるとはいえない。
ともあります。
今回の地裁判決を参考に、
過度に萎縮する必要はないでしょうが、
控訴審で判決がひっくり返ることも
あり得ます。
こういうことをしてほしくないとの
お願いとして考慮しましょう。
ガイドラインに沿っていれば、
少なくとも訴訟リスクは減らせます。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今週も知財の雑談を楽しみましょう。
今週も著作権の雑談を楽しむのはいかがでしょうか?
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