先日『中国から商標「アイヌ」を出願 特許庁で審査待ち、批判も』という記事を見かけました。
(日本経済新聞6/3付
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59929160T00C20A6CR8000/)
「批判」というのは、記事中では、「(アイヌ民族への)便乗商法ではないか」というもののようですが、突き詰めれば「そんな出願(さらには登録)は許せん!なんとか拒絶できんのか!」ということになり得ます。
(このような批判は、出願人が、私たちが「アイヌ(出願商標は「AINU」)」から直感する「アイヌ民族」とは無関係と思われる個人(中国の方)であることも影響してそうです。)
さて、そんな「批判」と合わせて考えたいのが、「拒絶されるとしたらどのように?」です。手っ取り早いのは、誰か(できれば、正当な人)が同じ商標を出願・登録してくれていればいいのですが、今回はそうはいかなそうです。
そこで、個人的には、最近流行り(?!)の「公序良俗違反」(商標法4条1項7号)の規定が使われないか?と思ったわけです。
(参考:商標法
第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。・・・七号 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標)
これは特許庁が商標を拒絶する際の「伝家の宝刀」とも言われ、なかなかむやみには使いにくいのですが、最近、所定の「文化的所産等」については、比較的よく使われるようになってきていると感じます。
(平成30年4月には審査便覧の新設もありました。参考URL:
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/binran/document/index/42_107_05.pdf)
例えば、有名なお祭りの名前を、お菓子(お土産)について出願すると、これで拒絶されます。
この例からも分かるように、この規定の適用については、「文化的所産等の利用状況と指定商品又は指定役務との関係」が考慮されますが、今回は、指定商品に「スマートフォン用保護ケース」なんかが含まれており、そういった「スマホケース」がご当地でお土産として販売されている例も多いことは、適用に当たっての有利な事情になりそうです。
最後、ちょっと小難しくなってしまいましたが、商標「AINU」の審査の行方に注目したいと思います。
ちなみに、拒絶されるとしたら、こんな感じかなと。
「本願商標は、「AINU」の文字を標準文字で表してなるものですが、それは、「アイヌ民族」を認識するものです。
世界中には、所定の「文化的所産等」が多数存在しています。これらの文化的所産等は、国家や各地域にとって重要な資産、資源です。
当該文化的所産等の名称等との直接的な関係が認められない出願人が、自己の商標として、その指定商品について商標権を取得し、これを独占的に使用することは、公益的な施策の遂行を阻害することとなり、また、地域住民の感情を害する蓋然性も高く、社会公共の利益に反するとみるのが相当です。
したがって、この商標登録出願に係る商標は、商標法第4条第1項第7号に該当します。」
なんかカッコいいですね。
(余談)
少し前&アメリカでの話になりますが、某有名人が商品「下着(矯正下着)」について商標「KIMONO」を出願したときも、同じような批判がありました。(ボクの友人もなぜかめちゃくちゃ怒っていました。)
このときは、SNS等での批判の盛り上がりや、京都市長の抗議もあり最終的には「新しい名称で、(矯正)下着ブランドは立ち上げます」という発表するに至ったようです。