今回も判例(原審:平成30年(ワ)第6029号、控訴審:令和2年(ネ)第1492号)の紹介になります。
美とは何か?考えさせられます。美しい曲線のご紹介です。
話の中心は、ご自宅にある可能性が高いあの機器です。
まずは、原審で、基本的構成態様と具体的構成態様がどのように認定されたのか見てみましょう。
基本的構成態様
A3:本件意匠は、略扁平直方体状のデータ記憶機に関する意匠であって、本体、溝部及びプレート(一定の厚みの薄い1枚の板に見える形状の部分。以下同じ。)から構成されている。
B3:平面及び正面には、各面の全幅に渡りプレートが形成されている。また、溝部はプレートと本体の間に設けられている。
C3:プレートは略前面に渡って平坦であって、プレートの平面から正面へとつながる角は、側面視円弧状に湾曲している。一方、プレートの平面から背面に繋がる角は直角に折れ曲がっている。
具体的構成態様
D3:プレートの正面側は、底面前方端にまで入り込むように形成されており、正面から底面へと繋がる角は側面視円弧状に湾曲している。
E3:プレートの正面側の正面視における下端よりもやや上の位置に開口部が設けられ、開口部の上に縦筋が設けられている。
F3:プレートの側面側後方には、横筋が設けられている。
G3:本体側面に筋は設けられていない。
H3:幅(正面視の横幅):高さ(正面視の高さ):奥行き(側面視の横幅)のサイズ比は、約3:9:15である。
I3:高さ全体に対して上方約15%が湾曲部分として形成されている。
J3:平面のプレートに沿って形成された溝部には、通気口がない。
K3:本体側面に通気口は設けられていない。
L3:本体側面のプレートと接しない辺(底面及び背面と接する辺)に溝部は設けられていない。
今回の判決では、構成要素が多いですね(汗)。
ちなみに、A1~L1は記載していませんが、これらは原告の主張で、A2~L2も記載していませんが、これらは被告の主張です。上記のA3~L3は、裁判所の認定です。
さて、原審において、「需要者にとって,データ記憶装置の使用態様としては縦置きがより一般的であることを鑑みると,需要者の注意を惹く程度については,縦置き・横置き両場合の正面に加え,縦置きの場合の平面並びに平面及び正面を斜め方向から視認する場合の左右の側面がより強く,横置きの場合に上面となる側の側面並びに正面及び上記側面を斜め方向から視認する場合の平面はこれらよりもやや弱いものと考えるのが相当である。」と判断されています。
これに対して、控訴人は、製品購入時における見え方を重視するべきであり、縦置きの場合の正面、平面及び左右の側面のいずれについても、需要者が注目する程度は同程度であると主張しました。
需要者がどこに着目するかで、要部が変わってきますから、判決を覆すにはここを押すのが一番と考えたのでしょう。
しかしながら、「データ記憶装置は、単体で持ち歩くものでもなく、テレビやパソコンの付属機器として、ケーブルで接続して使用するものであるから、これを購入するに当たっては、そのような設置状況を念頭に置いて製品の選択をすることになるとみるべきである。そうすると、需要者としては、使用する場合のデータ記憶装置の置き方を想定して購入するのであるから、前記引用に係る原判決において説示されるとおり、・・・」と知財高裁は原判決を支持しています。
控訴人の主張は採用されていません。判決文を読んでいても、当然ですが控訴人は自分の都合がよくなるように主張をしているのですが、やはり不自然さが残ります。
データ記憶装置の意匠にかかる問題ですから、限定的な使用態様を主張するよりも、この場合には、どこどこを注目するし、あの場合は、どこどこを注目するのような具体的な例が挙げられていると納得感があります。
具体例を挙げると、不利になる場合は、しゃべらないというのが常套手段であると思われます。墓穴を掘ることになりかねませんから・・・。
ですから、裁判所もこのような主張をする、被控訴人の意見を採用したのだと思われます。
また、控訴人は、基本的構成態様C3についてありふれていると主張しています。
基本的構成態様C3については、平面から正面へ向かう際の湾曲具合と、平面から背面へ向かう際の湾曲具合とが異なります。平面から正面へ向かう場合は、平面から背面へ向かう場合よりも湾曲しています。
このような湾曲具合が違いは、公知ではないと判断されています。
「縦置きの場合の平面並びに平面及び正面を斜め方向から視認する場合の左右の側面がより強」いから、この観点からデータ記憶装置を見ると、要部は、基本機構成態様A3~C3になるとの判断です。
要部が共通してくれば、当然、全体的な美観も共通してきます。
具体的構成態様については、具体的構成態様にH3とI3が共通していると判断されており、具体的構成態様にD3~G3、J3~L3までは共通するとは判断されていませんが、「この全体的な形態が視覚を通じて需要者に与える印象は強い。したがって、両意匠は、その具体的構成要素の祭典を考慮しても、全体として美観を共通にするというべきであり、被告意匠は本件意匠に類似するということができる。」と判事しています。
要部の構成が一致してしまえば、要部以外での差異があったとしても、全体的な形態が視覚を通じて需要者に与える印象は弱いのでしょう。
その結果、美観が共通していまい、意匠が類似すると判断に至ると考えられます。
やはり、要部の認定がどうなるかが重要ですね。
まとめ
意匠の判例についてご紹介しました。意匠権は、特許のように特許請求の範囲が記載されているわけでなく、特許請求の範囲へのあてはめのような手法とは異なる方法で侵害の該否を判断します。要部はこのように、需要者がどのように使い、その際にどのように見えるかを具体的に考察して決められているのだなと学びになりました。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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