IP RIP ~チザイの雑談~

知的財産(Intellectual Property)の「かゆいところに手が届く(Reach the Itchy Place)」お話です。

特許『これぞ国際調和?!』[リッキー]

知財の世界では、「国際調和」という言葉が好まれていると思います。「ハーモナイゼーション」なんてカタカナで書くこともあります。

 

ハーモナイゼーションとは? 意味や使い方 - コトバンク (kotobank.jp)

 

公に「国際調和」とは言われていませんが、米国とは「国際調和」したといえるかもしれません。

 

国際調和のイメージ

 

以前、下記のようなブログを書かせていただきました。

 

discussiong1.hatenablog.com

 

 

もうすでにご存知の方が多いとは思いますが、続報が出たということで、遅ればせながら紹介させていただきたいと思います。事件は、令和4年(ネ)10046号です。

 

この事件何が問題だったかといいますと、サーバ装置が米国内にあったために、特許権侵害が認められませんでした、という点にあります。

 

日本と米国にまたがったコメント配信システムの発明を、第三者特許権者に無断で業として実施していたため、その第三者特許権侵害で訴えられました。

 

被控訴人は、

 

属地主義によれば、「特許の効力が当該国の領域においてのみ認められる」のであるから、国外で作り出された行為が特許法2条3項1号の「生産」に該当しないのは当然の帰結である

 

権利一体の原則によれば、特許発明の実施とは、当該発明を構成する要素全体を実施することをいうことからすると、一部であっても国外で作り出されたものがある場合には、特許法2条1項1号の「生産」に該当しないというべきである

 

構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されていれば、直ちに、我が国特許法の効力を及ぼすという解釈の方が、問題が多い

 

我が国の裁判例においては、カードリーダー事件の最高裁判決(最高裁平成12年(受)第580号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁)等により属地主義の原則を厳格に貫いてきたのであり、その例外を設けることの悪影響が明白に予見されるから、仮に属地主義の原則の例外を設けるとしても、それは立法によってされるべきである

 

 

と主張しました。

 

被控訴人の主張は、正論だと思います。しかし、その正論にも問題がありそうです。

 

それは、特許法の目的は、発明の保護と利用のバランスを図り、産業の発達に寄与することにあります。

 

特許発明の構成要件の一部を外国に持ち出すことで、権利一体の原則から見れば、特許発明の一部実施にしか見えません。しかし、特許発明の効果を享受してしまっています。このような特許発明の回避を許してしまって、産業が発達するのかが問題となると思います。

 

同じ特許発明の効果を享受するものすべてについて回避を許すな!というつもりはありません。

 

特許発明と同程度の効果を発揮する別技術を開発した場合には、別技術でありますから、その特許発明の排他権を及ぼすべきではありません。

 

また、特許発明に劣る効果かしか発揮できない技術であっても、需要者からすれば気にするほどもない効果であったり、効果が見劣りする分価格が安くなっていたりすれば、納得する需要者もいるでしょう。この場合も、当然、特許発明の排他権を及ぼすべきではありません。

 

これらの場合には、別の技術が開発されています。別の技術を開発して、今回は、特許発明と同程度の効果しかなかった、特許発明よりも見劣りした効果しか発揮しなかった、ということはあるでしょう。

 

でも、別の技術を開発していれば、ブレークスルーがあったり、他の技術分野への転用があって思いもしないニーズに応えられたり、と産業が発達する可能性はゼロではありません。

 

医薬の特許発明を除けば、その技術が特許出願されて、20年も経過すれば、自由技術となります。自由技術は誰でも使える技術です。

 

ブレークスルー等や自由技術が増えることは、産業の発達に寄与すると考えられているのだと思います。

 

ところで、特許発明の構成要件の一部を外国に持ち出すことで、特許発明の回避を試みた場合に、産業が発達するのでしょうか?

 

私には、産業が発達するとは思えません。これを許すとどうなるか。ネットワーク関連の技術に限られると思いますが、特許発明の一部を海外に持ち出して、特許発明を実施しようとする者が現れるはずです。

 

そうしたら、特許発明をすることもばかばかしいし、そもそも秘匿して特許出願なんてやめてしまおうとなるはずです(弁理士的にもとても困る・・・・)。

 

こうなったとき、発明の利用に重きが置かれ、かつ、発明の保護が軽視されていて、発明の保護と利用のバランスが図られていないことになります。

 

裁判所は、

 

そうすると、ネットワーク型システムの発明について、属地主義の原則を厳格に解釈して、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在することを理由に、一律に我が国の特許法2条3項の「実施」に該当しないと解することは、サーバを国外に設置さえすれば特許を容易に回避し得ることとなり、当該システム発明に係る特許権について十分な保護を図ることができないことになって妥当でない

 

と判断しています。

 

このコメント配信システムについては特許権侵害との判断となりました。また、米国とも判断がそろったかなと思います。ちょっとした、ハーモナイゼーションが起きているなと思いました。

 

まとめ

 

コメント配信システム事件の一部をご紹介しました。また、勝手に、ハーモナイゼーションが起きているなと思っています。また、個人的には望ましい方向の判決が出たかなと思いました。改めて、法目的に立ち返ることの大切さも身に染みて感じています。

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

リッキー

 

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