IP RIP ~チザイの雑談~

知的財産(Intellectual Property)の「かゆいところに手が届く(Reach the Itchy Place)」お話です。

意匠『令和元年意匠法改正と建築物の意匠権侵害事件』[リッキー]

あれからちょっと時間が経ちましたね。

 

令和元年意匠法改正です。どんな内容だったかといいますと、意匠の保護対象は、令和元年意匠法改正前までは、物品に限られていました。

 

令和元年意匠法改正により、保護対象が、物品の他、画像、建築物、内装も対象になるようになりました。

 

令和元年意匠法改正とは直接関係はありませんが、そのころ争われていた判決(平成30年(ワ)26166)についてご紹介したいと思います。

 

令和元年意匠法改正を持ち出して何の話だろうと思われたと思いますが、画像、建築物、内装のどれかが話の中心です。

 

と、クイズっぽくいきたいところではありましたが、さっそく、ご紹介したいと思います。

 

建築物に関する判決です。

建物



意匠権侵害は、意匠が同一・類似、物品等も同一・類似、でないと成立しません。

 

意匠法改正前の話だから、建築物が保護対象でなく、そもそも意匠権侵害にならないのでは?と思われる方もあったかもしれません。

 

イ号は、「組み立て家屋」です。組み立て家屋は、使用時には不動産となっており、動産ではないから・・・と思ったりしますが、量産、運搬、組み立てるなど動産として取り扱える場合には、意匠法7条、意匠法施行規則別表第1の61号が規定する「組み立て家屋」に該当すると判断しています。

 

被告は、販売時には不動産となっているから意匠法上の物品に当たらないと反論していますが、土地と一体となって販売したという事実だけで、直ちに動産としての性質が失われるわけではないからと、被告の主張を採用しませんでした。

 

さて、物品は同一と判断されました。意匠はどうなのでしょうか?

 

本件意匠と被告意匠を対比する場合には、基本的構成態様と具体的構成態様に分けて考えます。もちろん共通点と差異点を認定します。

 

基本的構成態様は1つ、具体的構成態様はa‘~g’の7つ示されているが具体的構成態様については差異点がある具体的構成態様cについて記載します。

 

A‘ 家屋の正面視において、地面と垂直に設けられた柱部および地面と平行に設けられた梁部よって、略十字の模様が形成されている。

 

c1‘ 正面視において、前記柱部は、家屋の中心からやや右又は左に外れた位置に形成され、前記梁部は、前記柱部の略中央の高さにおいて、前記柱部を左右から挟むように形成されており、

 

c2‘ 正面視において、前記柱部と前記梁部とによって、縦棒が横棒の中心からやや右又は左に外れた位置にあり、かつ、前記縦棒が前記横棒を貫通するような略十字の模様が形成されている

 

 

そうです、差異点は、十字の縦棒が中央にちょっと右に寄っているか、ちょっと左に寄っているかという点です。

 

実は、被告意匠は3つあり、そのうちの一つは本件意匠と同じで十字の縦棒が中央にちょっと左に寄っていたのですが、残り2つは、十字の縦棒が中央にちょっと右に寄っていて、差異点が存在する状況にありました。

 

意匠も商標と同じで、意匠を全体として観察することを要しますが、新規な創作部分の存否等を参酌して、取引者ないし需要者の最も注意をひきやすい部分を意匠の要部として把握し、登録意匠と相手方意匠とが、意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを重視して、観察を行うべきとされています。

 

余談ですが、商標には、商標の性質からして、新規性の要件はありません。ですから、商標では、全体観察が原則で、要部観察は例外となります。意匠では、要部観察がマストです。

 

家屋の性質上、家屋に出入りするから、居住者や訪問者は家屋の内装だけでなく、外装も目にすると指摘しています。特に、通常玄関の存在する正面視のデザインが需要者の注意や関心を引くとしています。

 

 

基本的構成態様と具体的構成態様の全部が、本件意匠の要部と認定しました。

 

多くの場合は、要部に相違点があると、需要者の視覚を通じて起こさせる美感が異なることが多いので、意匠が非類似と判断されます。

 

今回はそうではなかったようです。

 

ちょっと右に寄っているか、ちょっと左に寄っているかは、左右対称の場合と比較すると斬新さや独創性を感得させるが、ちょっと右に寄っているか、ちょっと左に寄っているか同士の比較では、斬新さや独創性に違いがないとしています。

 

美感に決定的な差異を与える差異ではないと判断され、本件意匠と被告意匠は類似すると判断されました。

 

つまり、意匠権侵害成立です。

 

なお、本件では、不正競争防止法の不正競争行為としても訴えています。原告の建物の正面の形態が「商品表示等」に当たると主張しています。

 

争ったのは、十字の部分を含んだ「田の字」の外観です。

 

それに対して裁判所は、「原告製品形態は、書面側壁面のほか、家屋の正面を構成する左右の壁、正面の壁面、天井部、柱部及び梁部等の構成要素並びにそれらの配置等について記載されており、これによって、家屋の形態は具体的に特定されているといえる」と判断しています。

 

原告製品形態の特別顕著性も認めませんでした。

 

訴訟をするときは、使えるものは使ったほうがいいと思いますが、意匠と不正競争防止法も外観という点からはセットで使えることがあるのですね。

 

特許の判決ばかり読んでいると、特許と不正競争防止法の組み合わせを見かけることはほぼありません。

 

著作権の判決を読んでいると、著作権不正競争防止法の組み合わせはよく見かけます。著作権特許権のような登録された権利ではないので、補強の意味もかねて不正競争防止法でも訴えるのだと理解していました。

 

意匠権のような登録された権利と不正競争防止法を組み合わせることもあるのですね。

 

判決文から、意匠権侵害は認められて、不正競争行為は認められませんでしたから、意匠法と不正競争防止法との法の趣旨を理解するのにはとてもいい題材だなとも思いました。

 

まとめ

 

意匠権に係る判決について紹介しました。意匠の同一類似の判断についても記載しました。そして、意匠権のような登録された権利と不正競争防止法を組み合わせることもあるのですね。意匠権侵害は認められて、不正競争行為は認められませんでしたから、両者の違いを学ぶのに適した判決だと思いました。

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

リッキー

 

 

★★IP RIPは、Yuroocleさんに参加させて頂いております★★

yuroocle.notion.site