朝6時半になると、近所でラジオ体操の音声が聞こえてきます。学校は、夏休みなんだな~と思いながらも、仕事仕事と仕事に勤しんでいます。
今回も産業構造審議会の議事録から話を広げていきたいなと思います。宜しくお願い致します。
商標法の「使用」の定義は、特許法や意匠法の「実施」の定義に比べて、長いなぁ~と思ったことはないでしょうか?
弁理士試験の受験生ならば、丸暗記する部分ですから、ほとんどの人がそう思うはず!と信じています。
過去の商標法の条文
私も苦労して暗記しましたが、大正10年法では「使用」の定義が条文になかったようで
昭和34年法から定義規定が設けられたようです。
当初はこんな感じです。
〔参考条文:昭和34年商標法第2条第3項〕
3 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
一 商品又は商品の包装に標章を付する行為
二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し引き渡し譲渡若しくは引渡しのために展示し又は輸入する行為
三 商品に関する広告、定価表又は取引書類に標章を付して展示し又は頒布する行為
すごくシンプルと思いませんか?
そして、平成3年法改正で三号までだったのが、なんと七号まで増えます。
そうです。役務に関する定義規定が増えたのですね。
そして、あれも足りませんね。「電磁的方法により提供する行為」。これは、平成14年法改正により八号として追加されました。
八号までってさすがに多いですよね。
参考までですが、現在の特許法は、「実施」の定義が三号まで、現在の意匠法も「実施」の定義が三号までです。意匠法は2条3項三号の下に(イ)(ロ)が続くので、特許法よりも長いですけれどもね。
特許法はこちら。
(定義)
第二条 (略)
3 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
一 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為
二 方法の発明にあつては、その方法の使用をする行為
三 物を生産する方法の発明にあつては、前号に掲げるもののほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
(以下、省略)
意匠法はこちら。
(定義等)
第二条 (略)
2 この法律で意匠について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
一 意匠に係る物品の製造、使用、譲渡、貸渡し、輸出若しくは輸入(外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為を含む。以下同じ。)又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。以下同じ。)をする行為
二 意匠に係る建築物の建築、使用、譲渡若しくは貸渡し又は譲渡若しくは貸渡しの申出をする行為
三 意匠に係る画像(その画像を表示する機能を有するプログラム等(特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)第二条第四項に規定するプログラム等をいう。以下同じ。)を含む。以下この号において同じ。)について行う次のいずれかに該当する行為
イ 意匠に係る画像の作成、使用又は電気通信回線を通じた提供若しくはその申出(提供のための展示を含む。以下同じ。)をする行為
ロ 意匠に係る画像を記録した記録媒体又は内蔵する機器(以下「画像記録媒体等」という。)の譲渡、貸渡し、輸出若しくは輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出をする行為
(以下、省略)
当時の人もさすがに長いと思ったのでしょう。見直しが検討されています。
どのように商標法の条文をわかりやすくしようとしたのか?
「使用」の定義が細かいから、包括的な定義規定に書き直してはどうかということが提案されたようです。
どのような定義規定かというと、
(第1の分類)
a.商品商標に関する行為か、
b.役務商標(サービスマーク)に関する行為か、
c.商品商標及び役務商標に共通する行為か
(第2の分類)
x.商標を付する行為か、
y.商標が付された物を譲渡・提供する行為か、
z.商標を広告等において表示する行為か
です。
第1の分類でも、第2の分類でも、3つの分類に収められているので、見た目がすっきりしました。
それでは、このとおり、すんなりシンプルに包括規定で規定されたかというと・・・
そうではないですね。残念です。
平成14年法改正時に検討はされましたが、
「包括的な使用概念を取り入れる場合には、いかなる行為が使用に該当するか不明確であり、不使用取消審判などにおいて「使用」に当たるか否か解釈上の疑義を拡大するおそれがある。」との理由で、これは引き続き検討すべき事項とされた。
のだそうです。
この理由を見て、特許法や意匠法の「実施」の定義規定に比べて、商標法の「使用」の定義規定が長いことにちょっと納得感がありました。
特許法や意匠法には「不使用取消審判など」がないのですよね。
裁定があり、通常実施権が設定されることはあっても、さすがに「取消」はないですから。
こういうところにも法制度の有無から違いが生じるものなのかなとなと思いました。
近年の商標法改正を振り返ると
そういえば、現在の商標法の「使用」の定義規定は十号まで増えてきて来ます。
九 音の標章にあつては、前各号に掲げるもののほか、商品の譲渡若しくは引渡し又は役務の提供のために音の標章を発する行為
十 前各号に掲げるもののほか、政令で定める行為
平成26年法改正で、「動き商標」、「ホログラム商標」、「色彩のみからなる商標」、「音商標」、「位置商標」が追加されました。
新しいタイプの商標の保護制度 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)
参照してきた産業構造審議会の資料の最後に、「音商標」の検討もこの頃にはすでになされていたのですね。
ここではオーストラリア、ノルウェーの商標法が紹介されていました。
そして、忘れてはいけない!平成18年法改正で「実施」や「使用」に、「輸出」が追加されました。
まとめに代えて本日の痒い所
・商標法の「使用」の定義規定は長くて、包括的な規定にすることも検討されていた
・「不使用取消審判など」独特の制度があるから、特許法や意匠法の「実施」の定義規定のように短くならない
・「音商標」などが追加されて、商標法の「使用」の定義規定はさらに長くなったorz
痒いところに手は届いたでしょうか?
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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