こんにちは。
年度末ですね。知財業界では3月は繁忙期とされています。年度予算(ノルマ)を達成するための出願(主に特許)が舞い込んできます。そんなわけで特許以外のお話を書くというのは気分転換にもなりますね。
さて、前々回はサランラップの例を挙げて「意匠×特許」について、前回はレクサス等の例を挙げて「意匠×商標」について書いてみました。
2021/1/11投稿記事
2021/2/5投稿記事
ということで、今回はこれまでお送りしてきた「意匠シリーズ」の最終回として、「意匠×不正競争×著作権」について書いてみたいと思います。よろしくお願いいたします!
- 意匠権と不正競争&著作権の大きな違い
- 「モノのカタチ」が商品の出所を示す! ~ユニットシェルフ事件~
- デッドコピーは不正競争防止法で?! ~ファッションデザイン等の例~
- 「応用美術品」の著作物性 ~TRIPP TRAPP事件~
- おわりに
意匠権と不正競争&著作権の大きな違い
意匠権と不正競争&著作権の大きな違いは、なんといっても、出願・登録が必要な意匠権に対して、不正競争&著作権は出願・登録が必要ないということではないでしょうか。面倒な手続も権利維持のための費用も要らないわけです。
しかし、その代わりに、権利としては意匠権等に比べて相対的に弱いところがあり、いざ権利行使となった時の主張・立証が大変なことがあります。例えば、「自分が正当な権利者である」ということについて、意匠権はシンプルに登録情報を見せればいいんですが、不正競争や著作権はその証明において一悶着あることもしばしばです。
「モノのカタチ」が商品の出所を示す! ~ユニットシェルフ事件~
不正競争防止法の2条1項1号は「周知の表示(商標など)を使ったりして、商品の出所について混同を生じさせること」をNGとするものです。
ユニットシェルフ事件(平成28(ワ)25472(平成29年8月31日東京地方裁判所);控訴棄却)では、「モノのカタチ」自体がそのような商品の「表示」になり得るとして、被告商品の販売等を禁止しました。
原告商品
被告商品
※画像は下記【参考1】より引用
要するに、「原告商品のカタチは原告のものとして有名になっており、被告商品はそれによく似ていて消費者が混乱するからダメ」ということです。商標のように「モノに表示される文字など」が対象になったのでなく、「モノのカタチ」自体が対象となったことがポイントですね。
【参考1】平成28(ワ)25472(平成29年8月31日東京地方裁判所)
デッドコピーは不正競争防止法で?! ~ファッションデザイン等の例~
不正競争防止法の2条1項3号は「他人の商品のカタチを模倣したモノの販売など」をNGとしています。ここでの「模倣品」は、「他人の商品を丸パクリしたデッドコピー品」を指します。
この規定は、ライフサイクルが短いとか、展開(バリエーション)が豊富であるとか、個別に意匠権を取得するのが現実的ではない分野、例えばファッションデザインの分野において特に意識されているようです。(下記【参考2】等)
【参考2】
「デッドコピー」と認められるためのハードルがなかなか高いことや、販売開始から3年経った商品には適用されないことに注意してください。
「応用美術品」の著作物性 ~TRIPP TRAPP事件~
意匠権は、「工業上利用可能性」を登録要件とすることで、著作権の保護対象となる「美術の著作物」を原則として保護の対象外としています。要するに、「工業的に量産できるモノは意匠権、量産できないモノ(美術品)著作権」と棲み分けられています。
ここで問題になるのが、実用品(量産品)に美術あるいは美術上の感覚・技法を応用したモノ、いわゆる「応用美術品」です。
※「応用美術(品)」に対して、それ自体の鑑賞を目的とし、実用性を有しないモノを「純粋美術(品)」と言ったりします。
子ども用のイスについて、ストッケ社がカトージ社を訴えた事例(平成26(ネ)10063(平成27年4月14日知的財産高等裁判所))では、デザイナーの個性が発揮されているか否かを検討し、創作的に表現された部分が存在することを認定した上で、「応用美術の著作物性」を認定しました。その上で結論としては、創作的な部分(2本脚であること等)において類似しないとして著作権侵害は認めませんでした。
「応用美術」においてはデザイナーの個性が発揮される選択の幅が限定されることから、著作権による保護の範囲は比較的狭いものにとどまると考えたほうがよさそうです。
ストッケ社「TRIPP TRAPP」
カトージ社「トライアングルチェア」
おわりに
では、今回のまとめです。
- モノのカタチは商品の表示として不正競争防止法で保護される可能性がある。
- デッドコピー(丸パクリ)はダメ!
- 応用美術(量産品)に著作物性が認められることがあるが、保護は限定的。
例えば、意匠調査して登録意匠がないとなると「じゃあマネしてもいいんだね」とおっしゃる方もいますが、不正競争や著作権が問題になる可能性があることに注意しましょう。
また、今回はモノのカタチについて「不正競争」や「著作物性」が認められた事例を挙げましが、それらが認められなかった事例も多く存在します。その中に「そもそも意匠等の知財権を適切に取っていたら、こんなに揉めなかったのでは?」という事例も多いことは覚えておきたいです。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!