IP RIP ~チザイの雑談~

知的財産(Intellectual Property)の「かゆいところに手が届く(Reach the Itchy Place)」お話です。

商標『涼しい服と不正使用取消審判~防護標章登録まで商標法ふらり旅』[リッキー]

そろそろ、工事現場ではこの服が活躍する季節が近づいてきたようです。

空調服®とは | 株式会社空調服 (9229.co.jp)

 

空調ファン付きの上着

 

この空調服に関する知財高裁の判決(令和2年(行ケ)10017)を紹介したいと思います。

 

この事件の原告は、指定商品を第25類「通気機能を備えた服」他とする「空調服」の商標の商標権者です。被告は、指定商品を第25類「作業服、その他被服」とする「空調風神服」の商標の商標権者です。

 

「空調風神服」の文字列の中に「空調服」の文字が隠れているように見えます。

 

原告は、登録商標「空調風神服」を使用するにあたり、原告の登録商標空調服」と混同を生じるおそれがあり、混同を生じさせることに故意があったから、商標法51条1項の取消理由があると主張しました。

 

商標では、外観、称呼、観念により、類似か否か判断されます。

 

外観について、裁判所は、文字数、使われている文字からして外観が明らかに相違すると判断しています。

 

称呼について、裁判所は、音数の差異により明らかに区別することができると判断しています。

 

観念について、裁判所は、「空調風神服」を「空調」、「風神」、「服」という語を組み合わせた語であると理解でき、着目されやすい「風神」という観念が含まれており、「空調風神服」と「空調服」とは相紛らわしいものではないと判断しています。

 

裁判所は、「空調風神服」と「空調服」とは類似しないと結論付けました。

 

不正使用取消審判では、本件使用商標と引用商標との類似の程度だけでなく、引用商標の周知著名性及び独創性の程度、被告商品と原告商品との間の関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情等、の観点から総合的に判断されます。

 

他の観点でも、周知著名とはいえず、独創性の程度が高いとはいえず、混同を生ずるおそれのある取引の実情は認められないとされています。

 

結果として、登録商標「空調風神服」は取り消されませんでした。

 

「空調風神服」と「空調服」との関係をみていると、長い商標の一部に著名な商標が取り込まれていることがあります。

 

・「IZOD BY IMAGAWA」の中に著名商標「IZOD」の文字があったり、

 

・「ILANCELI」の中に、バッグ、ベルト、小物類などの一流ブランドランセルの「LANCEL」の文字があったり、

 

・「PALM SPRINGS POLO CLUB・パームスプリングポロクラブ」の中に「POLO」、「ポロ」の文字があったり、

 

・「庵治石工衆」の中に「庵治石」の文字があったり、

 

して、いずれも、混同を生ずるおそれがあると判断されています。

 

一方、

 

・「ROSEO‘NEILLKEWPIE・ローズオニールキューピー」の中に「キューピー」の文字があったり、

 

・「インテルグロー」の中に「インテル」の文字があったり、

 

・「NINA L‘ERIXIA」の中に「ERIXIA」の文字があったり、

 

・「御用邸の月」の中に「御用邸」の文字があったり、

 

しても、混同を生じるおそれがないと判断されたものもあります。

shinhanketsu-yoyakushu.pdf (jpo.go.jp)

 

 

上述のような例の中に「SONY」の例もあったかと思いますが、忘れてしまいました・・・。

 

SONY」と言えば、防護標章制度を利用している数少ない例かと思います。著名性の要件のハードルが高い故かとは思いますが。

 

平成16年5月25日の第6回商標制度小委員会の議事録によると、

第6回商標制度小委員会 議事録 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)

 

・平成16年の時点で、オーストラリア、香港、マレーシア、パキスタンザンビア、コロンビアの6カ国・地域が日本以外に防護標章制度を採用している

 

・平成16年の時点で、防護標章を理由とする拒絶理由が使われる例もほとんどない

 

・実問題として、著名性、周知性、あるいはそれをもとにした効力範囲が10年間固定されるといった硬直的な制度、使い勝手の悪さ、行政の負担等があると指摘され

 

・防護標章制度を廃止して、禁止権の範囲を拡大することにも言及されている

 

防護標章登録制度を廃止するありきで議論されていたわけではなく、防護標章登録制度を維持する場合どうすれば使い勝手がよくなるか、防護標章登録制度を廃止した場合防護標章登録制度が担っていた部分をどこで担保するのか+どうすれば使い勝手がよくなるか、議論がなされていました。

 

今さら読んでいますが、とても興味深かったです。

 

 

まとめ

 

 

不正使用取消審判の話題から始まり、商標法4条1項15号の話に展開して、防護標章登録制度に行き着いてしまいました。商標法のなかをぶらぶら散歩した感じになってしまいました。

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

リッキー

 

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