IP RIP ~チザイの雑談~

知的財産(Intellectual Property)の「かゆいところに手が届く(Reach the Itchy Place)」お話です。

特許『特許のお金の話~損害賠償額~』[リッキー]

暑くなってきましたね。朝からセミの鳴き声が聞こえるのは空耳?なんて思いますが、気の早いセミはもう地上にいるのかもしれませんね。暑さに慣れるには時間がかかりますので、しっかり体調管理をしたいですね。

 

今回は、特許権のお金に関わるお話です。

 

特許権のお金の話

 

特許権を取得するには、

 

出願するためにお金を支払い

 

審査をしてもらうためにお金を払い

 

弁理士に代理をしてもらうならば代理をしてもらうためのお金を払い

 

特許査定をもらえたらならば1~3年分の特許料を支払い

 

特許を維持したければ4年目以降も特許料を支払い続ける

 

と、まぁ、お金がかかります。

 

出願から20年経過すれば、存続期間満了となり、ようやくお金の支払いが終わります。住宅ローンよりは支払期間は短いかもしれませんが、似たようなものかもしれませんね。

 

そして、特許権を侵害するものが現れれば、訴訟の費用が掛かります。

 

まだお金が出ていくのか・・・とがっくりするかもしれませんが、ここからは、特許権者側はお金を取り返す話になります(被疑新会社側は、継続して、お金が出ていく話です)

 

そこで、直近の特許法改正を復習しておきたいと思います。

 

令和元年に改正がありました。この改正では、損害賠償額の考え方が大きく変わりました(と思っています)。

 

どう変わったかというと、

 

改正前(特許法102条1項)

(権利者が侵害行為がなければ販売できた物の単位数量当たりの利益額を乗じた額)×(特許権の侵害製品の販売数量)-(権利者の販売することのできない事情)

 

改正後(特許法102条1項)

(権利者の製品単位数量当たりの利益の額)×{(侵害者の譲渡数量であって権利者の実施の能力に応じた数量(実施相応数量))-権利者が販売することができないとする事情に相当する数量(特定数量)}

+(実施料相当額)×(販売数量減少に伴う逸失利益の基準となる数量から除外された、実施相応数量を超える数量又は特定数量)

 

と変わりました。

 

なんか文言は変わったのはわかるけれども・・・っていう感じでしたら、ここからの解説もお読みください。(そんなこと十分わかっている方は、すみません、読み飛ばして、後半部分からお読みください)。

 

改正前も改正後もベースは、権利者が儲けられた分だけしか損害賠償額は認めません、というところにあるのは共通しています。

 

しかし、改正後については、ちょっと違うところがありまして、プラスアルファがあります。侵害者が権利者の能力を超えて販売していた分については、ライセンス料を取っていいよということになっています。

 

つまり、改正後は、改正前よりも、損害賠償額が大きくなる可能性が増えたといえますね。

 

ところで、「権利者が販売することができないとする事情に相応する数量」について気になりませんか?

 

どんなときに数量に変化があるのでしょうか。法改正時の説明資料には、以下のものが挙げられています。

 

令和元年法律改正(令和元年法律第3号)解説書 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)

 

  • 侵害者の営業努力による場合
  • 競合品が存在した場合
  • 特許発明が侵害製品の付加価値全体の一部にのみ貢献している場合
  • 複数の事情が存在する場合

 

今回、ご紹介したい判決(令和2年(ネ)第10004号)は、ここに5番目を提供するものでしょうか。

 

それは、特許権が共有に係る場合です。

 

特許権の共有とは、簡単には、特許権者が2人以上いることです。

 

しかるところ,例えば,2名の共有者の一方が単独で同条2項に基づく損害額の損害賠償請求をする場合,侵害者が侵害行為により受けた利益は,一方の共有者の共有持分権の侵害のみならず,他方の共有者の共有者持分権の侵害によるものであるといえるから,上記利益の額のうち,他方の共有者の共有持分 権の侵害に係る損害額に相当する部分については,一方の共有 者の受けた損害額との間に相当因果関係はないものと認められ,この限度で同条2項による推定は覆滅されるものと解するのが相当である。

 

つまり、特許権に共有者があれば、他の特許権者の持ち分の部分については、覆滅理由があるということになります。

 

この場合、ライセンス料相当額にこの持ち分比率が掛け算されるのか、「権利者が販売することができないとする事情に相応する数量」に掛け算されるのか、定かではありません。

 

それは、この判決については原審が令和元年12月16日で、改正後の特許法の施行日は令和2年4月1日でしたので、改正前の特許法が適用されていたからです。

 

まぁ、減額されることは間違いないですね。

 

このように話が法改正資料にない新しい分類を作ってしまっている理由を分析すると、訴訟を起こした時には、特許権者は原告一人のようなのですが、訴訟前には特許権者が2人であった時期があるようです。

 

途中で、他の特許権者から持ち分を原告が譲り受けたのでしょう。一部の時期には、覆滅理由があるということになるようです。

 

 

まとめ

 

特許権のお金の話。損害倍書額について書かせていただきました。令和元年法改正からもう4年も経つのですね。普段の実務では、関りがないので、こうやって判決文を読みながら知識をアップデートしていかねばと思いました。

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

リッキー

 

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