こんにちは。
2021年も1ヶ月が過ぎました。あっという間ですね。今日も楽しく知財についてのお話を書いていきたいと思います。
さて前回、サランラップの例を挙げて「意匠×特許」について書いてみました。おかげさまで大変好評いただき感謝です。やはりいろいろな権利を絡めて考えるのは面白いですし、何よりお得(一石二鳥)!
ということで、今回は予告通り「意匠×商標」について考えてみたいと思います。
- 「意匠」×「商標」=「立体商標」
- 「立体商標」登録のハードル ~エバラ焼き肉のたれ~
- 意匠登録から「立体商標」を目指す ~レクサスのグリル~
- 「立体商標」の落とし穴!? ~TABIOの五本指ソックス~
- おわりに
「意匠」×「商標」=「立体商標」
異なる概念であるはずの「意匠」と「商標」はどこで交わるのでしょう?
意匠制度の主な保護対象は「物品の外観」です。一方、商標法は保護対象として、文字、図形、記号等の他に「立体的形状」を挙げています。
要するに、「物品の外観」である「立体的形状」は、商標として登録される可能性があるんです。そしてなんと言っても商標として登録されることのメリットは、「更新によって半永久的に権利を存続できる」というところです。(これに対し、特許は出願から20年、意匠は出願から25年で存続期間が満了します。)
このような商標を「立体商標」と言います。立体商標の登録例としては、以下のものがあります。
出典:商標登録第5225619号公報
出典:商標登録第5384525号公報
出典:商標登録第5674666号公報
どれもその「立体的形状」を見るだけで、どの商品か分かるのではないでしょうか。
「立体商標」登録のハードル ~エバラ焼き肉のたれ~
「じゃあ、立体的形状は全部、意匠じゃなくて商標として登録すればいいじゃん!」と思いますよね。しかし「立体商標」として登録されるにはハードルがあるんです。これは、商標法が保護対象として「立体的形状」を挙げつつも、「商品等の形状」については、原則「識別力がない」、「特定の者に独占させるのは適切でない」として登録を認めないからです(下記【参考】参照)。
そして、その例外として『その立体的形状が、特定の者の商品を示すものとして「周知」である場合に、登録を認める』のが基本的な運用なんです。
【参考】令和2(行ケ)10076「要旨」より
https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/905/089905_point.pdf
・・・商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美観をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって,その反面として,商品・役務の出所を表示し自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少なく,需要者としても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美観を際立たせるために選択されたものと認識するものであり,出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。また,商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを必要とし,その使用を欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないといえる。・・・
要するに、『「立体商標」として認めて欲しければ、その立体的形状を見てみんなが「あ、あの商品だ!」と思うほど有名になってからにしてね』ということです。
そして最近、「エバラ焼き肉のたれ」はこのハードルによって登録を阻まれてしまいました(令和2(行ケ)10076:知財高裁R2/12/15判決)。
出典(左):黄金の味 甘口 | エバラ食品 (ebarafoods.com)
出典(右):令和2(行ケ)10076「要旨」(上記URL参照)
意匠登録から「立体商標」を目指す ~レクサスのグリル~
これに対して「レクサスのグリル」は、「意匠制度」を利用して「立体商標」の取得を狙っているようです。どういうことでしょうか?
トヨタ自動車は、2012年に以下の意匠登録を取得しました。
意匠登録1443400(出願日:2011/1/7、登録日:2012/5/11)
そして、2019年に以下の商標出願をしました。
商願2019-101336(出願日:2019/7/25)
おそらくトヨタ自動車は、「レクサスのグリル」の立体的形状について、先ず意匠権による保護を確保し、その意匠権の存続期間中に「周知性のハードル」をクリアしようと考えたのではないでしょうか。そして、満を持して2019年に上記の商標出願をしてきたということが考えられます。
商標出願は現在審査中ですが、「レクサスのグリル」は「エバラ焼き肉のたれ」が超えられなかったハードルを超えて登録になるか?注目したいと思います。
「立体商標」の落とし穴!? ~TABIOの五本指ソックス~
今回「立体商標」について調べている中で、こんな「立体商標」を見つけました。
出典(左):商標登録第6255004号
出典(右):商標登録第6255006号
私も愛用している「TABIO」の五本指ランニングソックスです。
ここまで読んでいただいた方なら「これは五本指ソックス業界にとっては脅威の権利では!?」と思われるかもしれません。 しかし、よく見ると登録商標の中に「文字部分(TABIO)」があります。このような場合、例えば「文字部分」をメインに登録が認められた可能性があります。そうすると、「文字部分」を除いた「靴下自体の形状」や「滑り止めゴム部分のパターン」が似ているだけでは、商標全体としての権利侵害は認められない可能性が高くなります。
強い「立体商標」の権利が欲しい場合、余計なもの(文字や記号など)は入れないように注意しましょう。
ただ、ここから頑張って、「靴下自体の形状」や「滑り止めゴム部分のパターン」に識別力を持たせることができれば、強い「立体商標」として使えるようになるかもしれません。その可能性を求めて、一旦(「文字部分」を含めたもので)登録を受けておくという意味はあるかもしれません。
おわりに
お読みいただきありがとうございました!最後に今回のまとめをしてみます。
・意匠(立体的形状)を商標(立体商標)として保護できる
⇒商標権なら半永久的に存続させられる!
・「立体商標」が認められるにはハードルがある
⇒その立体的形状が自分の商品と繋がるよう努力を!
⇒意匠権の存続期間中にハードルを超える!
次回はここまで3回にわたってお送りしてきた「意匠シリーズ」の最終回として、「意匠×著作権・不競法」について書いてみたいと思います。よろしくお願いいたします!