こんにちは。
とても寒いので、家で引きこもってこちらを書いています。
以前、『意匠「グッドデザイン賞から意匠を考える」【MI】』の最後で「意匠は特許や商標と絡めて考えるのも面白いです。次回以降でそのあたりも書いてみたいと思います。」と書きました。
ということで、今回は「意匠×特許」について考えてみたいと思います。
知財制度の中の「意匠」のポジション
まず、知財制度の中における意匠のポジションを数字から考えます。
<訴訟件数(2020年)>
特許51件 商標18件 意匠4件
裁判所HP(裁判所 - Courts in Japan)より
期間指定:令和2年1月1日~12月31日
訴訟類型:民事訴訟
<出願件数(2019年)>
特許307,969件 商標190,773件 意匠31,489件
特許行政年次報告書2020年版
上記の数字から誤解を恐れずに言うと、知財制度の中において意匠のポジションは決して高くはないということになります。自分の実務的にも意匠を扱う機会は多くなく、商品の形状に関する侵害系の相談でも、意匠権は存在せず、不競法の判断になることが多い印象です。
※令和2年4月から意匠法の保護対象に「建築物」や「画像」が含まれることとなりましたが、本稿では従前の「物品」を念頭に書いています。
「意匠」と他の知的財産とを絡める
じゃあ意匠権は重要ではないのか?取らなくてもいいのか?取っても使えないのか?、というとそういうわけではないと思います。
そこで、ここからは、特許や商標といった他の知的財産と絡めた「意匠」の有効な利用例について考えていきたいと思います。今回は、まず「意匠×特許」の例です。
「意匠×特許」(サランラップ(登録商標、以下同)の例)
皆さんご存じの「サランラップ」。刃がM字型になっていて、フィルムを切りやすくなっています。
これについて、旭化成は特許6478657号「切断刃及びフィルムロール収納容器」を取得、併せて以下のような意匠権も取得しています。
意匠登録第1541191号(【意匠に係る物品】包装用箱の切断刃)
意匠登録第1552617号(【意匠に係る物品】包装用箱)
この話を一般の方(弁理士会主催の無料セミナーの出席者や学生など)にすると、『「意匠」って思ったよりも「機能美」を保護してくれるんですね』という反応があります。
そうなんです!
サランラップの例にしても、M字型の深さを変えたりすれば、外観上の「美感」は変化するため、意匠権の範囲外となる可能性はあります。しかし、機能を発揮するため(+レイアウトやコスト等の制約を満たすため)にベストな形状を突き詰めていくと、必ずある形状に行き着きます。その形状(=機能美)を「意匠権」で押さえるというのは非常に有効だと思います。
さらに、サランラップの例では、併せて特許が取得されています。つまり「刃を所定のM字型としてフィルムを切りやすくする」ためのアイデア(技術的思想)は特許権で保護されています。(注:それなりの限定はされています。⇒長手方向の中央部に形成された凸部が、先端側に平坦な直線部を有する略台形形状であって、直線部の長さが、切断刃の長手方向における長さの1%以上5%以下であり、直線部の両端における変動角度が、7度以下である 等)
このように、機能面のアイデアを特許、それを突き詰めた機能美を意匠で保護するというのは、特にシンプルなデザインが好まれる昨今、有効になってくるのではないかと思っています。
あとは、細かい話ですが、令和2年4月から意匠権の存続期間が実質延長された(出願から25年になった。従前は登録から20年。)ことも、追い風になるのかなと思います。
おわりに(次回に続く)
意匠制度は、最近大きな法改正があり、私的には少しカオスな状態になっています。改正後の状況を考える前に、少し整理をしてみようかなと思っています。
というわけで、次回は、「意匠×商標」について考えてみたいと思います。
本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました!