帰宅時に読んでいただいた場合には、お腹が空くかもしれません。
写真の著作物に関する判決（令和２年（ワ）第３２１２１号）をご紹介したいと思います。争点は４つあるのですが、その中の１つ著作権侵害の成否についてです。
著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいいます。
写真の著作物は、伝統的に（？）文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものと考えられていますので、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属しないと判断されることはまずないです。問題になるのは創作性（思想又は感情を創作的に表現したか？）でしょう。
写真の著作物の創作性は、被写体と、撮影技術（撮影時刻、露光、陰影のつけ方、レンズの選択、シャッター速度の設定、現像手法等）とにあるとされています。
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被写体に創作性があり、著作物であれば、写真の著作物は複製物になります。
例え、被写体に創作性が無く著作物でないとしても、撮影時刻、露光、陰影のつけ方、レンズの選択、シャッター速度の設定、現像手法等、選択の幅が広いので、写真の著作物に創作性が認められる傾向にあります。
ご紹介する判決の被写体は、エビチーズ春巻きです（ビールととても相性がよさそうです。枝豆も欲しいな・・・）。
まず共通点を認定し、その共通点に創作性があるか判断していきます。そして、全体観察を行います。
共通点
ａ被写体であるスティック春巻きを２本ないし３本ずつ両側から交差させる点
ｂ２本のスティック春巻きを斜めにカットして、断面を視覚的に認識しやすいように見せ、さらに、チーズも主役でない程度に見えるようにしている点
ｃ端に角度がついた、白色で模様がなく、被写体である複数本のスティック春巻きとフィットする大きさの皿を使用している点
ｄ皿に並べた春巻きを、正面からでなく、角度をつけて撮影している点
ｅ撮影時に光を真上から当てるのではなく、斜め上から当てることで、被写体の影を付けている点
ｆ葉物を含む野菜を皿の左上のスペースに置いている点
共通点ａ～ｆが挙げられていますが、いずれも創作的表現とは認められていません。
共通点ａ，ｂ，ｃ，ｆについては、被写体の工夫と思います。
共通点ｄ，ｅについては、撮影技術と思います。共通点ｄは構図の工夫、共通点ｅは陰影のつけ方の工夫でしょうか。
共通点ｄ，ｅについては創作性が認められやすいのかと思っていましたが、料理写真の構図、撮影方法としてはありふれているようです。その分野の専門家でないとなかなか判断がつかないところかなと思いました。
また、被告の証拠（甲２５、２６、乙２、６ないし８）がありふれていることを証明するのに適しており、被告の主張が上手だったのかと思います。
上述の撮影技術では、レンズの選択、シャッター速度の設定、現像手法で、創作性を出せたのかもしれませんが、写真に基づいてそのような点で共通性があることはプロであっても主張するのが難しかったのかもしれません。
また、他の争点のところに記載があるのですが、原告が被告に対して警告書を送付し、被告は原告に対して、原告の写真の無断使用の事実があったこと、原告の写真とは別の写真（判決で共通性を確認した写真）に差し替えたこと、を回答していました。
被告は警告書を受領してから３日後に疑わしきラベルシールを焼却処分しています。そして、受領から１０日間のうちに警告書に記載内容に関する調査に着手していました。
警告書を受領して本件のような対応をすべての場合においてすべきなのかと言われれば悩むところではありますが、被告のように、短期間で疑わしいラベルシールを処分し、調査の結果に基づいて無断使用の事実も認め、原告に対して誠実な対応をしていると思います。
警告書を受領した際に、このような誠実な対応をすることは、裁判官の心証形成に影響を与えたに違いありません。
まとめ
おいしそうなエビチーズ春巻きに関する事件を紹介しました。写真の著作物は創作性を否定されにくい傾向にあるのですが、本件では、写真の著作物性が否定されました。料理写真というジャンル特有の事情もありそうですし、被告の原告に対する誠実な対応も影響してそうに思えます。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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