IP RIP ~チザイの雑談~

知的財産(Intellectual Property)の「かゆいところに手が届く(Reach the Itchy Place)」お話です。

商標『温泉地でゆっくり過ごした~い』[リッキー]

盆休みにどこか温泉地に行って、ゆっくりしてきたという報告ではないです・・・。願望を書いただけです。

 

議事録を読んでいたら、また引っかかることが出てきましたので、そこをネタに雑談を。

第5回商標制度小委員会 議事録 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)

 

議事録では、「商標制度の枠組みの在り方」について議論されたものが記載されています。議論の中で出所の混同について言及があるのですが、そのときに、商標「SPA」について言及されていました。

 

どのような事件であったか、見ていきたいと思います。

 

商標「SPA」

スパ



東京高裁で商標の類似性が争われています。

 

・・・本願商標であるSPAの方の使用状況をみると、SPAの文字の上部に「歴史あるベルギーの偉大な水」と表示され、説明文に「ベルギー国内でもひときわ自然に恵まれたスパ市、そこにわき出す清らかな泉がスパの故郷です」等々の記載があることや、「ベルギーからSPA上陸」という新聞広告がなされていることなどを斟酌して、出願商標のSPAの文字部分は、ベルギーのスパ市に源泉を有しているミネラルウォーターであることを示すものとして用いられていると認定し、・・・

 

スパの語源気にしたことなかったのですが、これを機に調べてみました。

 

SPAの語源

 

語源由来辞典には以下の記載があります。「スパ」の意味・語源・由来を解説 - 語源由来辞典 (gogen-yurai.jp)

 

スパは英語「spa」からの外来語で、ベルギーのリエージュ州にある町「Spa(スパ)」の名前に由来する。
ベルギーで湧き出る鉄分を多く含んだは、ワロン語で「噴水」を意味する「Espa」と呼ばれており、そこから「Spa」という町名となった。
この町は古くから療養温泉地として栄えたことから、鉱泉や温泉、それらがある保養地全体を意味する言葉として「spa」が用いられるようになった。

スパの語源は、ラテン語で「Salute Per Acqua(水の力で治療する)」に由来し、「Salute(治療する)」「Per(〜によって)」「Acqua(水)」の頭文字を取ったものとも言われる。
しかし、この説は英語圏で見られないため、日本で考えられた説のようである。

 

 

判決文と照らし合わせてみて、ベルギーのスパ市が語源であることは共通しているようですね。全く知りませんでした・・・。

 

それなのにスパ、スパと言っていたとは、・・・。一職業人として、もっと言語に関してアンテナを高く、感度を高くして過ごさねばなりませんね。

 

また、スパの語源にラテン語説があったのですね。「日本で考えられた説のようである」との記載はちょっと残念に感じました。よく練られた語源だな、なんて勝手に思っていただけなのですが。

 

商標の類否

 

引用商標は「SPAR」の欧文字と「スパー」のカタカナを上下2段書きにしたもののようです。

 

本件商標は、

 

本願商標は、図形部分の下に横書きした「SPA」の欧文字部分を組み合わせた構成であって、全体の約3分の2を占めるその図形は、中国人曲芸師の如き人物が両足を開いて、その下方の約3分の1を占める文字部分の上で跳躍して いることを表した特徴のある図形である

 

と認定されています。

 

商標の類否判断は、外観、称呼、観念の3つで判断しましたね。しかも全体観察が原則で、分離観察は例外です。

 

外観を全体観察すると、中国人曲芸師の図が大部分を占めるので、中国人曲芸師の図が大きな影響力を持ちます。

 

主要な部分が「SPA」でありながらも、それは3分の1を占めるにすぎず、中国人曲芸師の図が大きく影響していますから、外観が異なるとの結論になっています。

 

次に、称呼ですね。これに関しては本件商標と引用商標とで聞き誤る恐れがあるとして、称呼が類似すると判断しています。

 

さすがに、これは一致と言わざるを得ないでしょうね。

 

最後に、観念です。中国人曲芸師から直ちになんかの観念が起こらないとのことです。確かに、何も想起しませんでした。

 

「SPA」に関しては、鉱泉、温泉、温泉保養施設の観念が想起されるとのことでした。

 

一方、引用商標「SPAR」には、「拳闘する」という意味があるらしいです。判決文にもありますが、「現在のわが国における英語の普及状態からしても、この意味が直ちに想 起できるものとはいえず」とあります。

 

まったくもって、「拳闘する」という意味は思い浮かびませんでした。知らないから当然なのですが。

 

ということで、称呼は一致するが、外観、観念が相違するとの判断になりました。

 

判決では、外観、称呼、観念の3つのうち1つが類似するからといって、取引実情によって誤認混同のおそれが生じないのであれば、商標が類似するとの判断は誤りだと判決しています。

 

判決文の最後の部分にありますが、既存商標の保護ばかり厚くしていると、商標制度全体の運営が取引社会の需要に応じきれない事態を招くとの批判をまぬがれないと危惧されるとあります。

 

「商標制度の枠組みの在り方」について、揺れていた時代なのかもしれませんね。

 

まとめに代えて本日の痒いところ

 

・SPAの語源は、ベルギーのリエージュ州にある町「Spa(スパ)」の名前に由来する

 

・SPARは、健闘する、との意味を持つ英単語である

 

特許庁では外観、称呼、観念について審査しているが、取引実情まで考慮して審査されることは少なく、裁判で取引実情が考慮されることが多いか(?)

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。

リッキー



 

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