IP RIP ~チザイの雑談~

知的財産(Intellectual Property)の「かゆいところに手が届く(Reach the Itchy Place)」お話です。

弁理士「私の口述試験体験記」[KM]

先日、令和2年度弁理士試験の論文試験の合格発表がありました。例年とは異なる変則的な試験日程の中、論文試験を突破された方おめでとうございます。いよいよ残すは口述試験!そういえば、以前マータさんが口述試験について以下の記事を挙げられていましたね。

discussiong1.hatenablog.com

 そこで今回は、私KMが数年前に受験した口述試験についてお話させていただきます(数年前の受験体験記であるため、記憶が曖昧&最近の試験状況と異なるところがあるかもしれませんが、その点はご容赦ください。)。

 

1.試験会場到着まで

口述試験の会場は、皆さんご存知(?)のザ・プリンスパークタワー東京。私の日程は、火曜昼に会場へ集合して午後に受験というものでした。当時私は企業の研究員として働きながら会社に内緒で弁理士試験に挑戦しており、その日は予め有休をとっておきました。また、地方在住であったので東京に移動する必要がありましたが、前日入りはせずに当日入りで会場に到着しました。

会場に到着するとホテルのロビーには大勢の受験生が集まっていました。そのとき受付時間の終了まで未だ時間が結構あったことから一旦ホテルの外へ出て、近くの芝公園を散歩して時間を潰すことにしました。大勢の受験生によるピリピリとした空気感は苦手なので、その場所から離れたかったからです(自分も受験生の1人のクセに)。

ホテルのイラスト(小) 

2.受付終了後、待機室に移動

散歩してから受付時間ギリギリに受付を済ませたのち、エレベータで順番に待機室である客室に案内されました。客室の間取りはおそらく以下のようだったと思います(画像はホテルの公式HPの客室一覧より)。ベッドやイスの代わりにパイプ椅子が並べられており、受験生は受付でもらった番号札の順に座らされました。今の時代なら、あの広さの客室にあれだけの人数の受験生を待機させたら確実に密と言われそうな状況でしたね。自分に渡された番号札の番号とパイプ椅子の数から、この待機室で自分の番号はかなり後ろの方であることを悟りました(この待機室で最後から2番目の番号でした)。

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3.待機室に入室してから(前半)

待機室への受験生の移動が完了してから少し経った後、数人ずつ受験生が呼ばれては、試験が行われる客室へと移動していきました。待機室に残っている受験生は、各自呼ばれるまで黙って直前の確認作業をしていました。このとき自分は、受験生が呼ばれていく時間間隔を計りながら、あることに気付きました。「この時間間隔と自分の番号札の番号からして、自分が呼び出されるのは…今から2時間半後くらい?マジか…」このまま緊張の糸を張り詰めながら2時間以上も待機していたら試験に呼ばれる頃には疲れ果ててしまう…そう思った私は開き直って、自分の出番が近づくまでは緊張するのを止めてとことんリラックスすることにしました。目を瞑って試験以外の事をボーっと考えていたと思います。

 

4.待機室に入室してから(後半)

待機していた受験生の数も半分以下になった頃、それまで直前の確認作業もしていなかった私は、「呼び出されるまでそろそろ時間もなくなってきたし確認作業を始めよう。」と思いました。すると、そのタイミングで、隣の受験生(この待機室で最後の番号の受験生)から話しかけられました。確認作業したいんだけどなぁと思いましたが、話しかけられた内容が「待ち時間長くてしんどいですね。」というものであったため、激しく意気投合してしまったのを覚えています。その方はどうも昨年の口述試験に落ちた方だったようで、今年こそは!と意気込んでらっしゃいました。その方もその年に受かっていて、今頃バリバリ弁理士業に邁進されていたらいいなぁと思います。

 

5.試験が行われる客室へ移動、そして試験開始

その後ようやく自分も呼び出されて、金属探知機で身体検査されてから、試験が行われる客室へ移動しました。金属探知機はその年から導入されたらしく、前年に試験中の音声を録音しようと録音機器を持ち込もうとした輩がいたからという話を後から聞きました(真相は知りません)。試験を行う各客室の前に置かれた椅子に受験生は座って待機し、係の人の合図で入室して試験開始となりました。試験本番中の状況については、勉強した内容を必死になって吐き出していたことしか覚えていません…

結果は、「特許」は滞りなく最後まで回答を終えることができましたが、次の「意匠」では回答途中でタイムアップ。後がない「商標」では、途中つまずきながらも最後まで回答を終えることができました。「商標」の最後の回答が終わったとき、試験官の方から「問題はこれで最後なので緊張解いてもらって大丈夫ですよ。」と言われたのはハッキリと覚えています。2/3(特許〇、意匠×、商標〇)は最後まで回答できたので、「あぁこれで受かったな。」と安堵しました。

面接のイラスト「就職活動中の女性」 

6.試験会場を後にして

試験終了後は、試験会場近くの芝公園を散歩しながらたそがれたのち地元に帰りました。帰りの新幹線では、再びたそがれながらビールを飲んで寝落ちたと思います。そして、次の日からはまた、何食わぬ顔でしれっと当時の職場に出社して働いてました。

 

7.まとめ

口述試験後は、「受かっていたとして、その後どうしようかな。」と合格発表まで悶々としながら働いていた気がします。結果的には、合格発表があって間もなく当時働いていた職場を辞めて特許事務所に転職しました。以上が私の合格体験記になります。口述試験まで到達された方、本番までまだ3週間も時間はありますので、最後の追い込み頑張ってくださいね!

特許「研究者と特許」[マータ]

みなさま、こんにちは。

f:id:discussiong1:20200920015224p:plainhttps://twitter.com/b8L18UnY7nPd5NC

 

本日は、若手研究者の方に向けて特許のお話をしたいと思います。 

日々新しい発見や発明を追い求める研究者の仕事は、特許とは切っても切れない関係にありますよね。なので、研究者でもある程度の特許の知識は必要だと思います。

 

私自身、メーカーで長年研究開発業務を行ってきましたが、常に特許を意識して研究を行っています。

今回は、研究者が関わる特許の仕事について、とある健康食品メーカーで研究開発職として働いているAさん(架空の人物)をモデルにご紹介したいと思います。

 

この記事を読んで頂くと、

・研究者に必要な最低限の特許の知識

・研究者が特許について注意すべきこと

・特許出願から特許査定までにどんな仕事があるか?

 

をざっくり知ることができます。では、宜しくお願い致します!

 

1. Aさんの発明
ある日、Aさんは、植物Bの抽出物(エキス)にダイエット効果(痩身効果)があることを発見しました。Aさんは、これは新発見なのではないか?と考えています。そこで、今回の発見について学会発表をしたり、このエキスを配合したダイエットサプリの開発をしたいと考えています。また、他社に真似されないように、今回の発見に基づく発明に関して特許出願をしたいと考えています。具体的なクレーム(特許請求の範囲)については、ひとまず今回は想定せずにいきたいと思います。

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2. 特許出願のタイミング
Aさんは、学会発表により今回の発明について市場にアピールしたいと考えています。しかし、もし特許を出願する前に発表をしてしまうと、発明の内容がその時点で『公知』になり『新規性』を失うため特許を取れなくなります(特許法第29条第1項)新規性を失わないための例外規定(新規性喪失の例外、特許法第30条)もありますが、あくまで例外なので期待しない方が賢明です。

 

なので、学会発表などで発明の内容が公知になる前に特許出願をすませておく必要があります。また、学会によっては『講演要旨集』が学会発表当日よりはやく公開されることがありますが、それももちろん『公知』になります。審査官(発明を審査する特許庁の職員)は、例え学会の要旨集であっても見落としません。特に、学会の発表者(共著者を含む)の中に、特許の発明者の名前が入っている場合は簡単に発見されます。

 

また、特許は、早いもの勝ちなので、他社が同じアイデアで特許出願する前に出願する必要もあります(先願主義、特許法第39条)。なので、できるだけ早め早めの特許出願が重要です。

 

★ポイント★

・特許出願は、発明が公知になる前にする、他人よりも早くする。

 

3. 特許出願前の調査(先行技術調査)
特許は、すでに公知であったり(新規性がない、特許法第29条第1項)、公知な技術から簡単に思いつくようなものなど(進歩性がない、特許法第29条第2項)には認められません。特許になる可能性がゼロの発明について出願し審査を受けても、時間も費用も無駄になってしまいます。

 

そこで、Aさんは特許出願をする前に、今回の発明に新規性や進歩性がありそうか、先行技術調査を行う必要があります。この調査には、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)などのデータベースを用いることが多いです。

 

パソコンを使って働く白衣の人のイラスト(男性)

例えば、調査の結果、以下のようなことが書かれた文献が見つかったとします。

 

過去の特許文献1: C植物(B植物の近縁種)のエキスにはダイエット効果がある。

 

もし、審査官が審査の時にこの文献を見つけたら、

 

『すでにダイエット効果が知られているC植物の代わりに近縁種のB植物についても試してみるのは簡単に思いつくよね』(進歩性なし!!)

 

と判断する可能性があります。 

また、下記のようなことが書かれた文献があったとします。

 

過去の特許文献2: B植物からは、Dという天然成分を抽出することができる。
過去の特許文献3: 天然成分Dには脂肪分解効果がある。

 

この場合、審査官は、2と3の文献を組み合わせて、


『B植物のエキスにダイエット効果を期待するのは当然だよね。だってB植物には天然成分Dが含まれていることが知られているし、Dには脂肪分解効果がすでに知られているから』(進歩性なし!!)

 

と判断するかもしれません。

 

このように、Aさんは、色々な先行文献を調べて自分の今回の発明が特許になりそうかどうかを予想(判断)します。また、このままでは特許にすることは難しいと感じた場合は、『特許になる可能性』を高めるために特許明細書などに色々と対策や工夫を講じることもできます(話が長くなるので対策などについてはまたの機会に。。。)。

 

★ポイント★

・先行技術調査により、自分の発明が特許になる可能性を予測しよう。

 

4. 特許出願から特許査定まで

最終的な判断として、Aさんは、今回の発明について特許出願することにしました。しかし、そのまますんなり特許になることは、なかなかありません。

Aさんの特許出願から暫くして、その審査結果である拒絶理由通知書※が送られてきました。※特許の要件を満たしていない理由などが書かれた審査官からの手紙のようなもの。

 

そして、その通知書の中には、引用文献として以下のような文献が記されていました。

 

文献▲▲: B植物からは、Eという天然成分を抽出することができる。(過去の特許文献)
文献◆◆: 天然成分Eは脂肪細胞に強力に作用する。(英語の学術論文の要約)

 

 そして、審査官からのメッセージとして、

 

『天然成分Eを含むB植物のエキスにダイエット効果を期待するのは当然。なぜなら天然成分Eは、脂肪細胞に強力に作用することが過去の研究により知られているから』(進歩性なし!!)

 

Aさんは、研究員であるため、この分野の英語の学術論文を読み慣れています。審査官が提示した引用文献◆◆を確認したところ、この引用文献の要約文(アブストラクト)には確かに、Eは脂肪細胞に強力に作用すると書いています。しかし、実際にこの文献の実験データをよーく見てみると、成分Eは、脂肪細胞の脂肪蓄積能力を高めていることが分かりました。つまり、この文献は、E成分は脂肪細胞に作用するといっても、一般的なダイエット効果(脂肪を分解したり、減らしたり)とは逆の方向に働く作用を示した文献であることが分かりました。

 

そこで、Aさんは拒絶理由通知に対する意見書として、①審査官の認識に誤りがあること、②文献▲▲と文献◆◆を合わせて考えると、むしろB植物のエキスにダイエット効果を期待する方が無理があること(阻害要因となる)、などを伝えました。その結果、Aさんの発明は晴れて特許査定となりました。

 

以上の例は極端な例ですが、審査官が引用文献の内容を誤認することは時々あります。その分野の専門家の研究者ならすぐに気づくことができると思います。

 

★ポイント★

・研究者の知識を活かして、審査官を納得させる論理(反論)を構築しよう!

 

5. まとめ

研究者のメインの仕事はもちろん研究です。しかし、特許の知識が不足していると特許出願前に発明の内容を公知にしてしまったり、特許になる可能性の全くないものを出願してしまったり、社内の知財部の方に迷惑をかけかねません。

 

逆に、研究者が特許の知識を深めれば、知財部や社外の弁理士さんとの協力により質の高い特許明細書を仕上げることも可能となります(今回は登場しませんでしたが実際の出願手続きや審査官への対応は知財のプロである知財部の方や弁理士さんにお願いすることが多いです)。また、深い専門知識を有する研究者は、拒絶理由への対応の際にも大いに活躍できます。

 

長くなってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました!!

        脳の研究をしている科学者のイラスト

 

 

著作『ゲーム実況の投稿と収益化』[YO]

ゲーム実況、視聴していますか?

個人的には、テレビよりも、ゲーム実況を視聴している時間が長くなってきました。

 

ゲーム実況を投稿している人たちは、ゲーム会社に著作権をライセンスしてもらったり、他の契約したり、小難しいことをして投稿していて大変そうだって思う人も中にはいますよね。もしかすると、ライセンスもらわなきゃいけないの?って人もいるかもしれませんね。

 

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ゲーム

1.ゲームと著作権

 

ゲームは、映画の著作物とも解されていますので(平成13(受)第952号,最高裁平成14年4月25日第1小法廷判決)、著作権に含まれる種々の権利と関係があります。

 

特に、ゲーム実況動画をYouTubeなどのプラットフォームにアップロードする行為は、公衆送信(著作権法第23条)に該当します。なので、ライセンスや許諾なしに、ゲームの著作権者であるゲーム会社以外が、ゲーム実況動画をプラットフォームにアップロードする行為は、著作権侵害著作権法第51条)になります。

 

2.著作物の利用のガイドライン

 

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ガイドライン

ゲーム会社の中には、ゲーム実況動画をプラットフォームにアップロードすることに対して、著作権侵害を主張しませんという会社もあります(太っ腹!!)。ただし、著作権の権利行使を留保しているだけなので、ガイドラインに沿わないことをすると、著作権侵害で訴えられる余地があります。

 

また、アップロードはOKだけれども、収益化はNGという会社もあります。会社によって考え方が様々ですね。

 

インターネット上には、これらがまとめられたホームページが多数存在しますので、今更まとめてもね・・・という声もありそうですが、下記のホームページで、売上高の大きい企業として挙げられていた会社についてまとめました。

 

https://game-creators.jp/media/career/030/

 

注意:筆者による誤った解釈をしている場合もあります。ゲーム実況動画をプラットフォームにアップロードする際には、必ずご自身で、ガイドラインを確認してください。

 

 

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3.まとめ

ゲーム実況に対して、ガイドラインを守れば、著作権侵害を主張しませんという企業があります。中には、広告収入で収益化を図ることも認めているゲーム会社もあります。紹介しきれなかったゲーム会社はたくさんありますので、ご自身で調べてみるのも面白いかもしれませんね。

 

4.参考資料

 

ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン任天堂

https://www.nintendo.co.jp/networkservice_guideline/ja/index.html

 

利用規約 | バンダイナムコエンターテインメント公式サイト

https://www.bandainamcoent.co.jp/info/

 

SQUARE ENIX | The Official SQUARE ENIX Website - スクウェア・エニックス・ウェスト 素材使用ポリシー

https://square-enix-games.com/ja_JP/documents/materialusagepolicy

 

免責事項 | セガサミーホールディングス

https://www.segasammy.co.jp/japanese/etc/policy/

 

著作権ガイドライン | オンラインゲーム NEXONネクソン

https://www.nexon.co.jp/rule/copyright.aspx

 

著作物利用ガイドライン - ゲームと趣味・無料でオンラインゲームするならガンホーゲームズ

https://www.gungho.jp/manner/copyright.html

 

よくある質問コナミ

https://ja-support.konami.com/articles/FAQ/20170222003/

 

https://www.konami.com/games/momotetsu/teiban/cp-movie.html

 

キャリー・ストーリー はこぶ つくる ものがたり|位置ゲーコロプラ

https://colopl.co.jp/carrystory/copyright.html#:~:text=%E3%80%901.%E8%91%97%E4%BD%9C%E6%A8%A9%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E3%80%91,%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%8A%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%9B%E3%82%93%E3%80%82&text=%E3%82%92%E5%88%A9%E7%94%A8%E3%81%99%E3%82%8B%E5%A0%B4%E5%90%88%E3%80%81%E9%80%9A%E5%B8%B8,%E3%82%80%E3%81%97%E3%82%8D%E6%AD%93%E8%BF%8E%E3%81%84%E3%81%9F%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

 

意匠&特許「サランラップ(登録商標)の刃に仕込まれた知財」【MI】

こんにちは。

とても寒いので、家で引きこもってこちらを書いています。

以前、『意匠「グッドデザイン賞から意匠を考える」【MI】』の最後で「意匠は特許や商標と絡めて考えるのも面白いです。次回以降でそのあたりも書いてみたいと思います。」と書きました。

ということで、今回は「意匠×特許」について考えてみたいと思います。

discussiong1.hatenablog.com

 

 

知財制度の中の「意匠」のポジション

まず、知財制度の中における意匠のポジションを数字から考えます。

<訴訟件数(2020年)>

特許51件 商標18件 意匠4件

 裁判所HP(裁判所 - Courts in Japan)より

  期間指定:令和2年1月1日~12月31日

  権利種別:特許権or意匠権or商標権

  訴訟類型:民事訴訟

<出願件数(2019年)>

特許307,969件 商標190,773件 意匠31,489件

 特許行政年次報告書2020年版

特許行政年次報告書2020年版 | 経済産業省 特許庁)より

上記の数字から誤解を恐れずに言うと、知財制度の中において意匠のポジションは決して高くはないということになります。自分の実務的にも意匠を扱う機会は多くなく、商品の形状に関する侵害系の相談でも、意匠権は存在せず、不競法の判断になることが多い印象です。

※令和2年4月から意匠法の保護対象に「建築物」や「画像」が含まれることとなりましたが、本稿では従前の「物品」を念頭に書いています。

 

「意匠」と他の知的財産とを絡める

じゃあ意匠権は重要ではないのか?取らなくてもいいのか?取っても使えないのか?、というとそういうわけではないと思います。

そこで、ここからは、特許や商標といった他の知的財産と絡めた「意匠」の有効な利用例について考えていきたいと思います。今回は、まず「意匠×特許」の例です。

 

「意匠×特許」(サランラップ登録商標、以下同)の例)

皆さんご存じの「サランラップ」。刃がM字型になっていて、フィルムを切りやすくなっています。

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出典:ここまで違う!サランラップ®|サランラップ®|商品紹介|旭化成ホームプロダクツ

これについて、旭化成は特許6478657号「切断刃及びフィルムロール収納容器」を取得、併せて以下のような意匠権も取得しています。

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意匠登録第1541191号(【意匠に係る物品】包装用箱の切断刃)

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意匠登録第1552617号(【意匠に係る物品】包装用箱)

この話を一般の方(弁理士会主催の無料セミナーの出席者や学生など)にすると、『「意匠」って思ったよりも「機能美」を保護してくれるんですね』という反応があります。

そうなんです!

サランラップの例にしても、M字型の深さを変えたりすれば、外観上の「美感」は変化するため、意匠権の範囲外となる可能性はあります。しかし、機能を発揮するため(+レイアウトやコスト等の制約を満たすため)にベストな形状を突き詰めていくと、必ずある形状に行き着きます。その形状(=機能美)を「意匠権」で押さえるというのは非常に有効だと思います。

さらに、サランラップの例では、併せて特許が取得されています。つまり「刃を所定のM字型としてフィルムを切りやすくする」ためのアイデア(技術的思想)は特許権で保護されています。(注:それなりの限定はされています。⇒長手方向の中央部に形成された凸部が、先端側に平坦な直線部を有する略台形形状であって、直線部の長さが、切断刃の長手方向における長さの1%以上5%以下であり、直線部の両端における変動角度が、7度以下である 等)

このように、機能面のアイデアを特許、それを突き詰めた機能美を意匠で保護するというのは、特にシンプルなデザインが好まれる昨今、有効になってくるのではないかと思っています。

あとは、細かい話ですが、令和2年4月から意匠権の存続期間が実質延長された(出願から25年になった。従前は登録から20年。)ことも、追い風になるのかなと思います。

 

おわりに(次回に続く)

意匠制度は、最近大きな法改正があり、私的には少しカオスな状態になっています。改正後の状況を考える前に、少し整理をしてみようかなと思っています。

というわけで、次回は、「意匠×商標」について考えてみたいと思います。

本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました!

 

弁理士「弁理士試験:3年で最終合格した私が自分に設定していたルール」[KM]

明けましておめでとうございます。今年も当ブログをよろしくお願い致します。

先日、当ブログの共同執筆者4人で弁理士試験について記事にしました。その記事のなかで、私KMは、『自分の性分に合わせた勉強法を』というテーマで書かせて頂きました。

 

discussiong1.hatenablog.com

 

3年間の受験生活で最終合格した私は、上述の記事を書きながら、弁理士試験に挑戦するにあたり自分に幾つかのルールを設定していたことを思い出しました。今回は、そのルールのうち代表的な4つについてご紹介させていただきます。

なお、参考までに、私の合格までの3年間は下記の通りです。

1年目:短答×
2年目:短答〇、論文×
3年目:短答免除、論文〇、口述〇

 

【第1ルール:勉強期間は5年まで】

弁理士試験に挑戦するにあたり、私は、第1ルールとして、「勉強期間は5年まで」、すなわち、「5年で受からなかったら弁理士試験を止める」ことを決めました。その理由は、「合格者の8割は勉強開始から5年以内に受かっている」との情報を予備校かどこかで聞いたからです(今となってはその情報が本当だったか定かではありませんが)。サンクコストに振り回されてその後の人生を大幅に費やすことになるよりかは、ある程度の目安となる期限を試験勉強を開始する前に設けるべきだと考えて、このルールを設定したことを覚えています。

 

【第2ルール:ピーキングを意識して勉強すること】

第2ルールは、「ピーキングを意識して勉強すること」です。ここでいうピーキングとは、スポーツ選手が試合当日にコンディションがベストになるよう練習メニューを調整していくことを意味しています。試験日の1ヶ月前にベストコンディションに仕上がっていたとしても、その状態を試験日までそのままキープしておくことは(少なくとも自分の頭では)難しいため、自分はピーキングを意識して勉強のスケジュールを立てていました。具体的には、弁理士試験への挑戦を開始して1年目は、全範囲を網羅するために年間を通して勉強していましたが、2、3年目は、いずれの年も試験当日から逆算した約半年前より勉強を開始しました。あまり早くから勉強を開始しても、自分の性格上モチベーションを維持できずピーキングがうまくできない可能性があると考えたからです。半年という限られた期間の中で勉強をすることにより、私の場合は、緊張感を維持したまま試験直前まで勉強を継続することができたため、うまくピーキングができました。

オリンピックのイラスト「陸上競技・短距離走」

 

【第3ルール:苦手な範囲をリスト化すること】

第3ルールは、「苦手な範囲をリスト化すること」です。弁理士試験は、特許、意匠および商標いずれの法域においても勉強する範囲は膨大です。しかし、その範囲内には、得意とする範囲(例えば、実施権関連など)と苦手としている範囲(例えば、特許法184条関連など)が人それぞれあると思います。私の場合、そうした苦手としている範囲をなんとなく頭の中だけで把握しておくのではなく、「この範囲が自分は苦手だ!」と明らかに意識した際にはすぐリストに記入していきました。こうして作成したリストに書かれた範囲をきちんと消化せずいつまでも放置しておくと気持ち悪さが残ります。そうした気持ち悪さを解消したいというモチベーション作りのために、苦手範囲をリストに記入して可視化していました。

 

【第4ルール:合格するための勉強を意識すること】

第4ルールは、「合格するための勉強を意識すること」です。弁理士試験の受験生の中には、知識欲を満たすためなのかマニアックな知識に傾倒する受験生もいます。しかし、試験勉強はあくまで試験に受かるために行うものであり、マニアックな知識を覚えるためのものではないことを常に意識して勉強していました。マニアックな知識を覚える余力があればいいのですが、自分にはそんな余裕はなかったため、このようなルールを自分に課していました。つまり、合格に必ずしも必要でない知識は無理に覚えようとはしなかったということです。

 

【まとめ】

弁理士試験において、試験勉強する期間はある程度長期になることから、場当たり的に勉強するのではなく計画性が大事ではないかと思います。合格してから一定期間経過した私が最近の試験において言えることは少ないですが、今回の記事が誰かの気付きの一助になることができたら幸いです。ここまで読んでいただきありがとうございました!

 

 

特許・弁理士「小学生に特許制度を伝えたい!」【MI】

こんにちは。

いよいよ年の瀬大晦日。今年はコロナ禍で、知財業界も例外ではなく、外で知財の話をする機会は減ってしまいました。

そんな中ですが、過日、地元の小学校にお邪魔しまして、「職業について学ぶ」というテーマで話す機会をいただきました。私(弁理士)の他に、保育士さんや大工さんなどいらっしゃったんですが、なかなか弁理士は人気がないようで、、、なかなか私の話を聞きに来てくれた子が少なかったです(泣)。割と優秀そうな子が渋々(先生に頼まれて?!)来てくれてた感があったのが印象的でした。

ということで、今回は、もっと知財(特許制度)を身近に!弁理士を人気のある職業に!子ども(主に小学生)向けの知財活動について考えてみたいと思います。

 

 

弁理士会の活動について

教育用教材の提供

日本弁理士会のホームページでは、学校教育用の教材が提供されています。

www.jpaa.or.jp

小中学校向けとして、動画「はつめいってなあに?」や「パン職人レオ君の物語」、「工作教室」のネタが提供されています。

弁理士会では、これらの教材を基に出張授業もしています。私も、委員会の活動の中で、「パン職人レオ君の物語」をアテレコで上演したり、各種「工作教室」の講師として小学校で講義したことがあります。

 

入り口としての「工作教室」

これらの教材の中だと、「工作教室」は盛り上がります。単に、動画を見せるよりは、積極的に取り組んでくれる感じはします。また、工作(物を作る)という目的がハッキリしているため講師による差が出にくい点、作った物が手元に残るため成果が見えやすい点、にもメリットがあるかなと感じます。しかし、ちょっとした違和感を感じることがあります。

 

「工作教室」で感じる違和感

それは、弁理士は「発明」の専門家というよりは「特許」の専門家ではないのかもっと「特許(特許制度)」についてしっかり伝えられないかということです。

広く「発明」について知ってもらうことで、結果「特許制度」の理解や利用が進むということはあると思います。が、もっと積極的に『「特許制度」を理解してもらう/メリットとともにデメリットも伝えたい!』というのがあります。

 

「親子発明教室」でやってみたこと

「発明」をさせて「出願」させる

そこで、これも過日に地元で開催した「親子発明教室(持ち時間:1時間)」で、『特許制度がない場合とある場合の結果の違い』を感じてもらえるようなチャレンジをしました。簡単に以下の通りです。

  • 工作は簡単なもの(市販のプロペラカー:下記参照)
  • 改造させる(速く走るための「発明」をさせる。太さや長さの違うゴム等を事前に用意。)
  • 「発明」を申告(出願)させる(付箋に書いて提出)
  • 競争する 

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https://item.rakuten.co.jp/crafteriaux/23-724/?s-id=ph_pc_itemname

 

ポイントは『「発明」を申告(出願)させること』です。(早い順に並べておきます。)

そして最後に、『早い者勝ちで「発明」に「特許」があるとして、他の人の「特許発明」を使えないとしたら結果はどうなるか?』を考えてもらいました。実際にその改造を解除させることはしませんでしたが、『もし、特許を取った子以外は元に戻して、と言われたら、勝てるかな?』と。

 

子どもたちの反応

面白かった反応を2つほど紹介したいと思います。

<その1>

改造に集中して(orめんどくさがって)付箋を持ってこない子と、こまめに持ってくる子がいます。これは会社でも一緒だなぁと妙に納得しました。そして、持ってこない子は後から「それは自分が先に考えていた!」と主張します。これも一緒です。

<その2>

「ゴムを増やす」という発明が先に出ていたのに対して、「増やし過ぎると遅くなる。自分は4本がベストだと思った。」と進歩性(?!)を主張してくる子がいました。めちゃくちゃセンスを感じました。将来が楽しみです。

 

おわりに

私も小学生の子どもを持つ身として、教育について非常に関心を持っています。また、一法律家としては、法律や制度を理解して適切に使える人になって欲しいし、一専門家としては、特別なスキルを持つ人を尊敬しながら一緒に働ける人になって欲しいと思っています。

来年以降も「もっと知財(特許制度)を身近に!弁理士を人気のある職業に!」についていろいろ考えて、実行していきたいと思います。

最後に、私がよく小学生に紹介する名言で締めたいと思います。

  • 「アイデアとは、今あるものどうしの組み合わせ」(by ジェームス・W・ヤング)
  • 「私がかなたを見渡せたのだとしたら、それはひとえに巨人の肩の上に乗っていたからです。」(by アイザック・ニュートン

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。

また来年もよろしくお願いいたします!よいお年を!

弁理士「弁理士試験~私の論文対策~」[マータ]

みなさま、こんにちは。

f:id:discussiong1:20200920015224p:plainhttps://twitter.com/b8L18UnY7nPd5NC


前回は、当ブログの共同執筆者4人で弁理士試験について記事にしました。
その記事のなかで、私マータ(ma-ta)は、
『予備校を使って効率的に!』というテーマについて書かせて頂きました。

 

discussiong1.hatenablog.com

 

今回は、具体的な勉強方法(論文対策に着目して)について記事にしたいと思います。

 

《私の合格までの道のり》
まず、私の合格までの道のりは下記の通りです。

1年目:短答×
2年目:短答〇、論文×
3年目:短答免除、論文×
4年目:短答免除、論文〇、口述〇

私は論文に2年連続で落ちてしまい、いわゆる『三振』になりかけた「論文に苦しんだタイプ」です。正直、3年目まで論文の解き方をあまり理解できていませんでした。4年目にやっと解答の『型』が身に付き、答練でも安定して点数が取れるようになりました(LECの論文フォーマット講座のおかげ)。

 

《スケジュールや教材の管理》
勉強のスタイルは人それぞれだと思いますが、私はExcelを活用して勉強スケジュールや教材を管理していました。例えば、一つのExcelファイルに下記のようなシートを作成し、一元管理していました。

日程表(論文試験までの残された日数、毎日の勉強時間などを記録)
成績(毎回の答練の成績を記録、モチベーション維持用)
③特実(各問題の通し番号、問題のジャンル分け)
④意匠(各問題の通し番号、問題のジャンル分け)
⑤商標(各問題の通し番号、問題のジャンル分け)
⑥特実(暗記項目、趣旨など)
⑦意匠(暗記項目、趣旨など)
⑧商標(暗記項目、趣旨など)

 

《各項目の説明》
①、②:
これらについては、文字通りですm(_ _)m

 

③~⑤:
弁理士試験4年目ともなると、論文対策用に集めた答練や過去問の『問題と解答』が大量になってきます。私は、それを整理するために全てに『通し番号』つけ整理しました。例えば、特・実であれば『論文実践答練1回目、2回目、3回目、....』に対して『t-001, t-002, t-003, ‥‥』というように。そして、各番号ごと出題された問題の種類をExcelに記入しました(下図参照)。例えば、t-001では、『出願手続き』や『国際出願』について、t-017では『侵害』や『補償金請求権』について出題されています。

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解答は、『答案構成』だけのシンプルなものを用意し(A4用紙)、そちらにも同じ『通し番号』を記入して管理しました。最終的な問題数は、大体特実で160前後(つまりt-160くらいまで)、商標や意匠で80前後になりました。それらについて繰り返し答案構成を行い、完璧を目指しました。また、重点的に鍛えたかったり苦手なジャンルの問題を集中的に解くこともありました(例えば国際出願関連の問題だけを解く、など)。

 

⑥~⑧:
暗記したい項目や、趣旨問題などもエクセルに一元管理しました(これは口述試験にもとても役立ちました)。例えば、『職務発明とは?』『職務発明の要件は?』『共同発明とは?』『先使用権の趣旨は?』などなど。これらは、定期的にプリントアウトし、通勤時間や昼休みなどに暗記作業をしていました。あとで見返すと、とんでもない量を暗記したなと思います。

 

《まとめ》

私の場合は、Excelで一元管理することで頭の中の整理や教材の整理、スケジュール管理、モチベーション維持に役立ちました。勉強方法は人それぞれだと思いますので、是非、他の方の工夫や体験談も聞いてみたいと思います!!最後まで読んで頂きありがとうございました!!!