IP RIP ~チザイの雑談~

知的財産(Intellectual Property)の「かゆいところに手が届く(Reach the Itchy Place)」お話です。

続・商標「AINU(アイヌ)」について【MI】

こんにちは。

以前、『一個人が商標「AINU(アイヌ)」を出願した』ことについて記事を書きました。(IP RIPの記念すべき最初の記事です!)

discussiong1.hatenablog.com

この出願について、2021/2/25付けで拒絶理由通知が発送されたようです。根拠条文は予想通り(!?)伝家の宝刀「4条1項7号(公序良俗違反)」!

正直適用は難しいかもと思っていましたが、、、特許庁もやりますね。

拒絶理由通知の書きぶりから、今回の拒絶のロジックを見ておきたいと思います。

(以下、引用部分についてはJ-Platpatより引用、下線部は筆者の変更部分)

 

先ず、以下の通り、商標「AINU」を「先住民族であるアイヌの人々」と結びつけます

『・・・「AINU」の文字は、日本列島北部周辺、とりわけ北海道の先住民族であるアイヌの人々のローマ字表記と容易に認識させるものです。』

次に、所謂「アイヌ新法」(令和元年5月24日施行)を挙げて、アイヌ文化に対する国民意識の向上」を言います

『そして、・・・所謂「アイヌ新法」・・・において、アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発並びにアイヌの人々が民族としての誇りを持って生活するためのアイヌ文化の振興等に資する環境の整備に関する施策の推進が基本理念として掲げられたこともあり、我が国のアイヌ文化の振興等に対する国民意識が向上しています。』

上記を踏まえて、商標「AINU」を一個人に独占させるのは公序良俗に反すると結論付けます

『そうすると、・・・本願商標を、・・・一私人である出願人が、自己の商標として、・・・独占的に使用することは、「アイヌ施策推進法」第1条に規定するアイヌの人々が民族としての誇りを持って生活することができ、及びその誇りが尊重される社会の実現を図り、もって全ての国民が相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現の障害となるおそれがあり、我が国の社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するというのが相当です。』

こう見てみると、今回は「アイヌ新法」が制定されていたことが、4条1項7号を適用するにあたっての大きな根拠になった感じがします。割と世間が盛り上がった(登録を否定する方向で)も後押しになったでしょうか。

個人的には、今回の拒絶は妥当な気がしています。しかし、4条1項7号は濫用されるとあまり良くない気もします(「公序良俗」の判断について水掛け論になり易い)。いずれどこかで使ってみたい条文&ロジックではありますが、適切な運用を導けるよう気をつけたいと思います。

特許『審査の種類と審査を受ける時期を考える』[リッキー]

特許出願をしようと考えたときに、特許出願して権利化しようか、特許出願して権利化せずに後願排除しようか、秘匿しようか、など考えると思います。みなさんは、何をどう考えるでしょうか?

 

ブロックチェーンやAIなど最新技術について出願したわけではないのですが、出願に当たり、こんなことを考えたってことをシェアさせていただきたいと思います。今回は、特許出願して権利化しようか、特許出願して権利化せずに後願排除しようか、秘匿しようか、ではなく、違うことで頭をひねっていました。

 

長めですが、お付き合いいただけると嬉しいです。

 

あと、今までYOと名乗っていましたが、イニッシャルっぽいので違うのに変えてみました。今日からは、リッキーと改名して、新たな気持ちでブログを書いていきたいと思います!

 

[前提1]

・ある技術分野で、高速な処理に必要な発明Aを特許出願Aすることになった

・自己の先行技術調査では、新規性、進歩性を否定することのできる先行技術を見つけられなかった

・発明Aに続いて、発明B、発明C、発明D・・・と後続の発明が後に控えている

・発明B、発明C、発明Dは、特許出願Aの出願日の6か月後に提案される

 

1.先行技術は本当にないのか?

 

前提に、「自己の先行技術調査では、新規性、進歩性を否定することのできる先行技術を見つけられなかった」としていました。事実、見つけられなかったのですが。

 

そして、「発明Aに続いて、発明B、発明C、発明D・・・と後続の発明が後に控えている」ので、発明Aについて間違った判断をしたまま、発明Bについて特許出願B、発明Cについて特許出願C、発明Dについて特許出願D・・・と別に特許出願をすると、共倒れになる危険性もありました。

 

例えば、

・引用文献1により発明Aが新規性なし

・引用文献1+引用文献2により発明Bが進歩性なし

・引用文献1+引用文献3により発明Cが進歩性なし

・引用文献1+引用文献4により発明Dが進歩性なし

 

最悪ですね・・・4件の出願が全部権利化できない。想像もしたくないです。

 

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そこで考えたのが、もう審査してもらって白黒をさっさとつけてしまおうということです。特許出願Aをして発明Aに新規性がない、進歩性がない、または、進歩性あり、がはっきりすれば、特許出願B、特許出願C、特許出願Dについてどう出願するべきかが考えられるからです。

 

特許出願B、特許出願C、特許出願Dについてどう出願するべきかが考えるためには、審査結果が早く欲しい。さて何が考えられるか。

 

2.早く審査結果を得る方法

 

まず、特許出願Aをしただけでは、審査官により発明Aについて、新規性、進歩性の判断がなされないことはご存じかと思います。諸外国ではそうでもないですが、日本では、審査を受けるために、出願審査請求をしなければなりません特許法48条の3)。

 

特許庁不断の努力により、審査はスピーディーになり出願審査請求をしてから約11か月で最初の拒絶理由通知が来るまでに審査スピードが向上しています。とてもありがたいことです。

 

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しかし、発明B、発明C、発明Dが提案されてから5か月しないと早くても発明Aに対する拒絶理由通知が来ません。これでは、5か月間、待たなくてはなりません。競合も居ることですから、悠長に待っていることはできません。

 

それでは、出願審査請求から11か月よりも早くに拒絶理由通知を受けるにはどうしたらよいか。下記の3つが考えられます。

 

①優先審査

特許庁長官は、出願公開後に特許出願人でない者が業として特許出願に係る発明をしていると認める場合において必要があるときは、審査官にその特許出願を他の特許出願に優先して審査させることができる(特許法48条の6)。

 

②早期審査

2017年の実績では、早期審査の申請から平均3か月以下で審査結果が得られると、特許庁HPにて記載されています。ただし、早期審査の対象になる出願は、(1)実施関連出願、(2)外国関連出願、・・・等に限られています。

 

③スーパー早期審査

利用されて特許査定されると、ニュースで報道されることもありました。記憶は定かではないですが、スーパー早期審査の請求から4日?8日?ぐらいで、特許査定されたという案件があったと記憶しています。ただし、スーパー早期審査の対象になる出願は、(1)実施関連出願かつ外国関連出願、・・・等に限られています。早期審査よりもさらに対象が限定されています。

 

3.どれを選ぶか

 

①優先審査

出願公開が一つの要件になっていますが、出願公開は特許出願の日から1年半以降に公開されます(特許法64条)。ただし、出願公開請求(特許法64条の2)を行えば、特許出願の日から1年半未満でも出願公開されるので、出願公開の要件を満たすことはできます。しかし、特許庁長官に「必要がある」と認められないと、優先審査の対象にはなりません。

 

②早期審査

早期審査の対象になる出願は、(1)実施関連出願、(2)外国関連出願、・・・等に限られているので、実施関連出願の要件を満たす場合、実施関連出願ではないかと競合に目を付けられやすくなります。出願日と登録日を見てみれば、その期間の長さで早期審査したかどうかは簡単に見分けがつきます。また、外国関連出願の要件を満たそうとすると、翻訳に時間がかかりそうにも思えますが、例えば、日本語で米国出願をしておいて後から翻訳文を提出できますから、この要件を満たすことができそうです。米国代理人の費用が高いので、そこがネックですが。

 

③スーパー早期審査

スーパー早期審査の対象になる出願は、(1)実施関連出願かつ外国関連出願、・・・等に限られているので、満たさなければならない要件が増えるのでハードルが高いですが、早期審査と同じように考えることができます。

 

4.新たな前提

 

どれを選ぶか整理できたところで、新たに考えなければならない前提が出てきました。

 

[前提2]

・発明B、発明C、発明Dに続いて、発明E、発明F、発明G・・・と後続の発明がさらに出てくる気配(発明Aをしてから1年後を想定)

 

特許査定がなされると(特許法第51条)、特許権取得のために特許料を納付しなければなりません(特許法107条)。特許料が納付されると、特許権の設定登録がなされ、特許公報に発明が掲載されます(特許法66条)。

 

発明B、発明C、発明Dについても懸念されますが、特許権を取得するとその発明は公開されてしまいます。公開されるということは、発明Aが、ほぼ確実に発明E、発明F、発明Gの先行技術となり、新規性、進歩性を審査する際の先行技術になります。また、公開の時期にもよりますが、発明Aが、発明B、発明C、発明Dの先行技術となり、新規性、進歩性を審査する際の先行技術にもなる場合があります。

 

発明Aが公開されていない状況で、審査を受ければ、発明Aを先行技術としない分、新規性、進歩性の審査において新規性あり進歩性ありと言われやすくなることは言うまでもありません(発明Aよりも発明B~Gに近い先行技術がないという前提です)。

 

5.振出しに戻る

 

発明E、発明F、発明Gの存在が認識され始めたので、「自己の先行技術調査では、新規性、進歩性を否定することのできる先行技術を見つけられなかった」という懸念よりも、「発明E、発明F、発明Gを競合よりも先に出願できるか」ということが懸念点となりました。

 

「発明E、発明F、発明Gを競合よりも先に出願できるか」ということが懸念点であれば、特許出願Aの日から1年半までの期間、競合に発明Aの存在を知られないようにすることが発明E、発明F、発明Gについて権利化するうえで有利に働くかもしれません。

 

でも、「自己の先行技術調査では、新規性、進歩性を否定することのできる先行技術を見つけられなかった」という懸念は払しょくされていません。

 

6.まとめ

 

まとまらないじゃんってのが、正直なところではありますが。

 

「自己の先行技術調査では、新規性、進歩性を否定することのできる先行技術を見つけられなかった」よりも、「発明E、発明F、発明Gを競合よりも先に出願できるか」に比重があれば、特許出願Aの日から1年半までの期間を思う存分使って、発明をしたらよいことになります。

 

また、「発明E、発明F、発明Gを競合よりも先に出願できるか」よりも、「自己の先行技術調査では、新規性、進歩性を否定することのできる先行技術を見つけられなかった」に比重があれば、優先審査、早期審査、スーパー早期審査、の活用を検討したらいいのかと思います。権利化以外のコストが発生してしまいますが、コスト次第で、調査会社に依頼して、先行技術を探すのも手かもしれません。そもそも、発明B~Gを進歩性がでるように熟考しろ!と言われればそれまでなのですが。

 

他の手もあるよってことで、ブログ等を使って発信してもらえたら、参考にさせていただきたいです。

 

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リッキー

 

意匠&不正競争&著作権「『モノのカタチ』のいろんな権利」【MI】

こんにちは。

年度末ですね。知財業界では3月は繁忙期とされています。年度予算(ノルマ)を達成するための出願(主に特許)が舞い込んできます。そんなわけで特許以外のお話を書くというのは気分転換にもなりますね。

さて、前々回はサランラップの例を挙げて「意匠×特許」について、前回はレクサス等の例を挙げて「意匠×商標」について書いてみました。

 2021/1/11投稿記事

意匠&特許「サランラップ(登録商標)の刃に仕込まれた知財」【MI】 - IP RIP ~チザイの雑談~

 2021/2/5投稿記事

意匠&商標「『レクサスのグリル』は『エバラ焼肉のたれ』を超えるか?」【MI】 - IP RIP ~チザイの雑談~

ということで、今回はこれまでお送りしてきた「意匠シリーズ」の最終回として、「意匠×不正競争×著作権」について書いてみたいと思います。よろしくお願いいたします!

 

 

意匠権と不正競争&著作権の大きな違い

意匠権と不正競争&著作権の大きな違いは、なんといっても、出願・登録が必要な意匠権に対して、不正競争&著作権は出願・登録が必要ないということではないでしょうか。面倒な手続も権利維持のための費用も要らないわけです。

しかし、その代わりに、権利としては意匠権等に比べて相対的に弱いところがあり、いざ権利行使となった時の主張・立証が大変なことがあります。例えば、「自分が正当な権利者である」ということについて、意匠権はシンプルに登録情報を見せればいいんですが、不正競争や著作権はその証明において一悶着あることもしばしばです。

 

「モノのカタチ」が商品の出所を示す! ~ユニットシェルフ事件~

不正競争防止法の2条1項1号は「周知の表示(商標など)を使ったりして、商品の出所について混同を生じさせること」をNGとするものです。

ユニットシェルフ事件(平成28(ワ)25472(平成29年8月31日東京地方裁判所);控訴棄却)では、「モノのカタチ」自体がそのような商品の「表示」になり得るとして、被告商品の販売等を禁止しました。

原告商品

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被告商品

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※画像は下記【参考1】より引用

要するに、「原告商品のカタチは原告のものとして有名になっており、被告商品はそれによく似ていて消費者が混乱するからダメ」ということです。商標のように「モノに表示される文字など」が対象になったのでなく、「モノのカタチ」自体が対象となったことがポイントですね。

【参考1】平成28(ワ)25472(平成29年8月31日東京地方裁判所

裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan

 

デッドコピーは不正競争防止法で?! ~ファッションデザイン等の例~

不正競争防止法の2条1項3号は「他人の商品のカタチを模倣したモノの販売など」をNGとしています。ここでの「模倣品」は、「他人の商品を丸パクリしたデッドコピー品」を指します。

この規定は、ライフサイクルが短いとか、展開(バリエーション)が豊富であるとか、個別に意匠権を取得するのが現実的ではない分野、例えばファッションデザインの分野において特に意識されているようです。(下記【参考2】等)

【参考2】

DESIGN/LAW ファッションデザインのデッドコピー –Chamois事件(不競法編)

「デッドコピー」と認められるためのハードルがなかなか高いことや、販売開始から3年経った商品には適用されないことに注意してください。

 

「応用美術品」の著作物性 ~TRIPP TRAPP事件~

意匠権は、「工業上利用可能性」を登録要件とすることで、著作権の保護対象となる「美術の著作物」を原則として保護の対象外としています。要するに、「工業的に量産できるモノは意匠権、量産できないモノ(美術品)著作権と棲み分けられています。

ここで問題になるのが、実用品(量産品)に美術あるいは美術上の感覚・技法を応用したモノ、いわゆる「応用美術品」です。

※「応用美術(品)」に対して、それ自体の鑑賞を目的とし、実用性を有しないモノを「純粋美術(品)」と言ったりします。

子ども用のイスについて、ストッケ社がカトージ社を訴えた事例(平成26(ネ)10063(平成27年4月14日知的財産高等裁判所))では、デザイナーの個性が発揮されているか否かを検討し、創作的に表現された部分が存在することを認定した上で、「応用美術の著作物性」を認定しました。その上で結論としては、創作的な部分(2本脚であること等)において類似しないとして著作権侵害は認めませんでした。

「応用美術」においてはデザイナーの個性が発揮される選択の幅が限定されることから、著作権による保護の範囲は比較的狭いものにとどまると考えたほうがよさそうです。

ストッケ社「TRIPP TRAPP

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画像引用:トリップ トラップ (stokke.com)

カトージ社「トライアングルチェア」

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画像引用:「トライアングルチェア(ナチュラル)」について|カトージの商品 (katoji.co.jp)

 

おわりに

では、今回のまとめです。

  • モノのカタチは商品の表示として不正競争防止法で保護される可能性がある。
  • デッドコピー(丸パクリ)はダメ!
  • 応用美術(量産品)に著作物性が認められることがあるが、保護は限定的。

例えば、意匠調査して登録意匠がないとなると「じゃあマネしてもいいんだね」とおっしゃる方もいますが、不正競争や著作権が問題になる可能性があることに注意しましょう。

また、今回はモノのカタチについて「不正競争」や「著作物性」が認められた事例を挙げましが、それらが認められなかった事例も多く存在します。その中に「そもそも意匠等の知財権を適切に取っていたら、こんなに揉めなかったのでは?」という事例も多いことは覚えておきたいです。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

弁理士「中小企業のお客さんと仕事をする際に求められる能力」[らるご~]

いよいよ3月に突入ですね。毎年この季節は多くの特許事務所が繁忙期かと思いますが、今年に限ってはどうなんでしょう…そういう私「らるご~(これまでの記事ではKMと名乗っていた者ですが、らるご~に改名しました。)」も特許事務所に勤務しています。特許事務所のお客さんには、大企業だけでなく中小企業のお客さんも沢山いらっしゃいます。そうした中小企業のお客さん達と、私はこれまでに多くの仕事をしてきました。中小企業では、大企業と比べて年間の出願件数がかなり少ない場合がほとんどです。そのため、出願1件ごとに賭ける想いは大企業のそれとは比較にならないほど強いこともよくあります。しかし大企業のお客さんと比べると、中小企業のお客さんの中には特許にあまり馴染みのない方が多いのも事実。そのため、そうした方々に合わせた仕事の仕方が私たち事務所サイドの人間には求められます。そこで、今回は「中小企業のお客さんと仕事をする際に求められる能力」について、自分なりの考えをお話させていただきます。 

 

1.提案された発明のどこに特許性があるのか見出す能力

中小企業のお客さんから提案される発明の中には、説明を一度聞いただけでは、どこに特許性(=特許が取れそうな可能性)があるのか分からないものがあります。そのような場合、発明者(もしくは知財部)の方に質問を重ねて発明の深堀をした上で情報(従来技術を含む)を整理し、その情報を基に提案された発明のどこに特許性があるのか見出す能力が求められます(必要であれば念入りな先行技術調査も実施します)。そして、提案された発明で特許を取るためにアピールすべき特徴について説明し、それに納得してもらったうえで出願を進めていきます。

砂金採りのイラスト

2.特許性を高めるために発明の特徴を輝かせる能力

お客さんが「この発明は、こういう特徴があるから特許性がある!」と熱い想いを持って説明されても、「正直この特徴のままだと特許取るのは難しそうだな。」と思うことがあります。このような場合、今のままでは特許を取れる可能性はあまり高くないことを一旦説明します。そしてその説明を聞いた上でそれでもお客さんがその特徴で特許を取りたいと言われた場合には、「その特徴をもう少しカスタマイズすること」を提案したり、「その特徴が従来技術に対してどれだけすごいか(異質な効果を有するか)を強調するために明細書の書き方を工夫したりすること」があります。このような対応をするために必要な能力が、特許性を高めるために発明の特徴を輝かせる能力です。

 

3.特許全般の質問に対して分かりやすく説明する能力

中小企業のお客さんの中には、これまで特許出願にあまり馴染みがなかったものの、これから勉強していこうという気概を持った方たちも沢山いらっしゃいます。そうした方たちは得てして多くの質問を事務所側に投げかけてきます。そのような質問に対してバリバリ専門用語だらけの回答をする人もいますが、そうした回答はたいへん分かりにくく、お客さんの特許に対する苦手意識を強めることにしかならないと私は考えます。そのため、お客さんの特許全般の質問に対して分かりやすく説明する能力も持っておくべきだと思います。具体的には、平易な言葉で説明したり、難しい内容を回答する場合にはひとつひとつ順を追って丁寧に説明したりすることができる能力と考えます。

説明が分からない人のイラスト(男性会社員)

4.話しやすい、相談しやすいと思ってもらう能力

中小企業のお客さんから新規に仕事を依頼してもらうため、もしくは、今後も継続して仕事を依頼してもらうためには、純粋な実務能力は当然に必要ですが、それと同時に話しやすい、相談しやすいと思ってもらう能力もあった方がいいと思います。「いつでもどんな小さな疑問でもお気軽にご相談ください。」と言ったとしても、お客さんはその言葉を発した人間を見てそれが本当かどうか察します。その言葉が本当であると思ってもらうために、日々のお客さんとのコミュニケーションひとつひとつを大事にしていかねばなりません(自戒を込めて)。 

 

5.まとめ

以上、私が思う「中小企業のお客さんと仕事をする際に求められる能力」でした。が、ここまで書いてきて、「これらの能力って別に中小企業のお客さんに限らず、そもそもお客さん全般に対して必要な能力なのでは?」と気付きました。また、いずれの能力にもベースとして、いわゆるコミュニケーション能力が要求されるとも思いました。特許業界で働くにしても、人と関わって仕事をする限りはコミュニケーション能力は求められるようですね。

特許「実は特許を出願していた意外な有名人たち」【マータ】

みなさま、こんにちは。

f:id:discussiong1:20200717235637p:plain https://twitter.com/b8L18UnY7nPd5NC 

 

 昨日(2021/02/20)、ネットを見ていて面白い記事をみかけました。

 

洗濯干しのお悩みを小学生が解決 100均で買える便利グッズ
https://news.livedoor.com/article/detail/19727058/

 

福島県に住むとある小学生が開発した、お母さんを助けるためのアイデアグッズが特許を取得し、100円ショップ で商品化されたそうです。この小学生は、人気番組『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』にも出演したことがあり、妖怪博士(!!)でもあるスーパー小学生とのことです。小学生で、製品開発、特許取得、販売の流れを経験できるってすごいですね(^^)

 

このように、企業ではなく一般の方が「特許を出願した!」とか、「特許を取得した!」という記事、たまに見かけますよね。例えば、

 

2019/2/23

小6が異例の特許 手伝い中に考案「洗濯バサミ収納具」
https://www.asahi.com/articles/ASMDN54KDMDNULOB00Y.html

2019/7/13

小学5年生が発明 空きカン・ペットボトルの分別箱で特許取得
https://www2.ctv.co.jp/news/2019/07/13/57690/

2020/12/2

普通の主婦が“発明品”で1億円の大ヒット! 戸田恵子が聞く、アイデアを商品化するコツ
https://news.yahoo.co.jp/articles/87fec94a54ad90c6766a40da597654fcd189662c

2020/7/22

避難所でもぐっすり 神奈川の主婦、安眠ハウス開発
https://mainichi.jp/articles/20200722/ddl/k20/040/125000c

などなど。

こういう記事を見ていると、特許ってアイデア次第で色んな人に取得するチャンスがあるんだなと感じます。

 

少し話は変わりますが、実は、皆さんがよくご存じの有名人も意外な特許を出願していたりします。今回は、実は特許を出願していた意外な有名人についてご紹介させて頂きたいと思います。それでは、宜しくお願い致します!!

 

意外な有名人 その1秋山竜次さん(お笑いトリオ・ロバートのメンバー)


【特許番号】特許第6366202号
【発明の名称】小道具
【請求項1】
 プルオーバー型の上衣の前身頃の裏地に人物の顔をかたどった像が前記上衣の上下方向に対して倒立状態で設けられ、前記前身頃の表地に、前記像が有する目の位置を示す目印が設けられ、前記目印は前記像の目の並び方向に延び、且つ前記像の目の並びの位置と合致した位置に設けられており、前記目印の両端はそれぞれ前記像の輪郭と対応する位置にあることを特徴とする小道具。

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<コメント>
言わずと知れた秋山さんの「体モノマネ」に関連する特許ですね。
なかなか衝撃的な図(笑)。関連商品も発売しているみたいですね。

 

意外な有名人 その2松本人志さんダウンタウン

【公開番号】特開平9-196374
【発明の名称】ライターホルダー
【請求項1】
 使い捨てライターの上部が上方に突出するように収納することができるホルダー本体と、このホルダー本体の上部に常時開放方向に付勢するように回動可能に取付けられた該ホルダー本体に収納された使い捨てライターの上部を覆うキャップと、前記ホルダー本体の開放側の上部寄りの部位に前記キャップの開放側に形成された係止片と着脱可能に係合する常時係合方向に付勢された係合片と、この係合片と前記キャップの係止片との係合を解除するように該係合片を押し圧できるように前記ホルダー本体に取付けられた押し釦と、この押し釦の押し圧操作する回数を表示できるように前記ホルダー本体に取付けられた操作回数表示機構とを備えることを特徴とするライターホルダー

        

       f:id:discussiong1:20210221014531p:plain

 

<コメント>
 この出願は、残念ながら特許にはなっていないようです。その昔、「発明将軍ダウンタウン」という番組がありましたね~(古っ)。松本さんご自身も特許を出していたとは驚きでした。この発明は、自分が喫煙したタバコの本数をカウントできる点が特徴みたいですね。松本さんは、これとは別に目覚まし時計に関する特許も出しているみたいですね。発明の内容も面白かったです。興味がある方は公報も是非!

 

意外な有名人 その3北野武さんと所ジョージさん(本名:芳賀 隆之さん)


【公開番号】特開2007-44440
【発明の名称】アイアンクラブヘッド
【請求項1】
 フェース部背面の連結部に、水平で前後方向に長いネック部の前端を連結し、その後端をシャフトと一体のホーゼル部の先端に連結してシャフトより正面前方他端をシャフトと一体のホーゼル部の先端に連結してシャフトより正面前方にフェース面を配置することを特徴とするアイアンクラブヘッド。 

            f:id:discussiong1:20210221015041p:plain

 

<コメント>
 北野武さんと所ジョージさん、ゴルフ好きとして知られるお二人が一緒に発明者となっている出願ですね。こちらも残念ながら特許にはなっていないようですが、大物二人の特許出願、とても貴重ですね。所ジョージさん単独では、他にもいくつか出願があるようです。興味がある方は是非探してみてください!!

 

まとめ
 今回ご紹介した方以外にも、特許を出願したことがある有名人はたくさんいるみたいです。例えば、歌手の野口五郎さんは、その発明がかなり本格的だと話題ですね。ほかにも、小室哲哉さん(ミュージシャン・音楽プロデューサー)、秋元康さん(音楽プロデューサー、作詞家、放送作家)などなど。特許を見てみるとその人の意外な一面が知れるかも。。

 

では、本日も最後までお付き合い頂きありがとうございました!!!

 

 

著作『コスプレと著作権』[YO]

1月の下旬に、コスプレに関する報道がいくつかありました。

記憶に残っている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 

https://www.nikkansports.com/general/news/202101230000859.html

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/4e03185b5a6b1ec84dc075c652a47b2f929922c9

 

2月にも報道がありました。

 

https://cubeglb.com/popmedia/2021/02/11/cosplay/

 

「非営利目的なら、コスプレをしても著作権法に抵触しない」と報道されているのですが、本当でしょうか?コスプレと著作権、少し長くなりますが、かゆい部分に手が届くお話にしたいと思います。

 

ベネフィットは、法律をよく理解した上でコスプレを楽しめるようになるということでしょうか。それでは、宜しくお願い致します。

 

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1.キャラクターと著作権

2.キャラクターの絵と複製権と翻案権

3.「非営利目的なら、コスプレをしても著作権法に抵触しない」のか?

4.コロナ渦を考慮、オンラインでのコスプレはどうなのか?

5.解決策はあるのか?

6.まとめ

 

1.キャラクターと著作権

 

コスプレの話なはずなのに、いきなりズレてませんか??と思われるかもしれません。コスプレとキャラクターの関係は、ウィキペディアによれば以下のようになります。

 

コスプレとは漫画やアニメ、ゲームなどの登場人物やキャラクターに扮する行為を指す。

 

 

 

当たり前かもしれませんが、コスプレとキャラクターに関連性がありました。また、ウィキペディアでは登場人物とキャラクターは同列に扱われているので、簡単のためキャラクター絞って考えてみましょう。キャラクターに著作権はあるのか?そのためには、キャラクターが著作物である必要があります。最高裁判決では、キャラクターとは以下のように定義されています。

 

漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象概念(最判平9・7・17民集51巻6号2714頁―ポパイネクタイ事件)

 

 

 

著作権法上の著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)とされています。最高裁判決によれば、抽象概念は、「表現したもの」に当たりません。キャラクターを「表現したもの」とは、キャラクターの書かれた紙、キャラクターの書かれた鉛筆や筆箱、と言ったらイメージしやすいかもですね。

 

つまり、キャラクターは著作物でないから、キャラクターに著作権は発生しないのですね!

 

それじゃあ、コスプレと著作権に関係はないんだなって思うのは、勇み足です。ご注意を。キャラクター=コスプレではないですからね。また、著作権は、支分権の束とも呼ばれていて、いろいろな権利がまとまって著作権と呼ばれているので、ひとつの支分権についてOKだからといって、他の支分権についてもOKとはならないのがややこしいところなのです。

 

2.キャラクターの絵と複製権と翻案権

 

キャラクターは、著作物ではないが、キャラクターの絵は、著作物であることはご理解いただけたと思います。まず、複製権と翻案権について定義を見てみましょう。

 

第21条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。 

 

第2条1項

十五 複製 印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為を含むものとする。

イ 脚本その他これに類する演劇用の著作物 当該著作物の上演、放送又は有線放送を録音し、又は録画すること。

ロ 建築の著作物 建築に関する図面に従つて建築物を完成すること

 

第27条 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。

 

 

ちなみに、翻案とは、ウィキペディアによれば、芸術作品・エンターテインメント全般において、既存の作品を原案・原作として、新たに別作品をつくる行為を指す、とのことです。

 

でわ、キャラクターの絵をもとにコスプレの衣装を制作することは複製に当たるのでしょうか?

 

キャラクターの絵をコピー機で紙にコピーしたら、複製だけど、コスプレの衣装を制作するときにコピー機使ってないから、複製をしたことにはならないよね?って思う方もいらっしゃるかもしれません。専門書(半田=紋谷・ノウハウ31頁〔斉藤博〕)によれば「原画と複製物との間に必ずしも完全な同一性がみられなくとも,原画に表された登場人物の容ぼう,姿態,性格等の本質的な特徴が複製されていると認められれば原画の複製になる」ようです。

 

翻案については、キャラクターの絵をもとにコスプレの衣装を制作することは、ばっちり、定義にあてはまっていそうです。絵と衣装は、素材が違いますし、2次元か3次元かという違いもあります。別作品と言って間違いないでしょう。

 

つまり、キャラクターの絵をもとに、コスプレの衣装を制作することは、複製、翻案の両方に該当するということです。キャラクターの絵の著作者に無断でコスプレの衣装を制作すれば複製権、翻案権の侵害を問われることになります。

 

3.「非営利目的なら、コスプレをしても著作権法に抵触しない」のか?

 

さて本題です。「非営利目的なら、コスプレをしても著作権法に抵触しない」んでしょ?おそらくこれは、下記の条文を根拠にしていると思われます。

 

38条 公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下、この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りではない。

 

 

 

読んでの通りと思いますが、「複製」、「翻案」の文字は見当たりません。いくら非営利でも、「複製」、「翻案」は、この条文と関係がいないのです。

 

それでは、何を前提として、「非営利目的なら、コスプレをしても著作権法に抵触しない」と報道されたのでしょうか。実は、「翻案」は、著作権法第28条と関連が深いのです。

 

28条 二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。

 

 

 

どういうことなのでしょうか?具体的には、コスプレの衣装が二次的著作物になるということです。そして、コスプレの衣装の制作者は、コスプレの衣装の著作者となり、上演等の著作権を有します。さらに、キャラクターの絵の著作者も、コスプレの衣装の著作者と同じく、コスプレの衣装について上演等の著作権を有することになる。

 

コスプレの衣装を着て渋谷の交差点に出歩いても、非営利目的であれば(正確には、非営利目的、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けなければ)、上演権(著作権の1つ)を侵害しないので、コスプレの衣装を着て渋谷の交差点に出歩くこと自体は著作権法に抵触しないということです。繰り返しになりますが、コスプレ衣装を制作することは、依然として、複製権、翻案権の侵害を問われることになります。

 

それならば、自分でコスプレ衣装を制作せずに、買ってきたコスプレ衣装であれば問題ないのでしょうとも思えます。しかし、販売されているコスプレ衣装が全て適切に著作権の処理(使用料等を著作権者に支払う等)されているわけではありません。依然として、複製権、翻案権の侵害を問われることになります。

 

それでも、キャラクターの絵の著作権者は、コスプレイヤーみなさんのコスプレを楽しでいるでしょー。

 

4.コロナ渦を考慮、オンラインでのコスプレはどうなのか?

 

パンデミックに襲われ、コロナが流行して1年が経とうとしています。生活様式も、無理矢理変化を強いられました。コスプレ衣装を着て渋谷の交差点を歩くのは、昨今の状況下では難しいでしょう。その代わり、オンラインという選択肢(https://www.worldcosplaysummit.jp/2020/)が出てきましたが、著作権制限規定はあるのでしょうか。

 

第38条

3 放送され、又は有線放送される著作物(放送される著作物が自動公衆送信される場合の当該著作物を含む)は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、受信装置を用いて公に伝達することができる。通常の家庭用受信装置を用いてする場合も、同様とする。

 

 

コスプレ衣装を着てその姿を会議アプリ等で映すことも、著作権制限規定に入りそうませんでも、投げ銭もらっちゃダメです、と言ったところでしょう(記載に誤りがありました。すみません。)

 

5.解決策はあるのか?

 

そんなに侵害侵害って言ってたらコスプレできないじゃないか!!!

その通りなのです。日本は、法治国家であるから、法律を守らねばなりません。支分権が数多くあり、判断の難しい著作権について、ルールを整備しようというのが上記の報道なのです。実際にどこまで、話は進んでいるのでしょうか?

 

内閣府知的財産戦略本部には、下記の資料が掲載されています。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kousou/digital_kentou_tf/dai6/gijisidai.html

 

 

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なんか難しいですね。これは、3つの案のうちの1つです。おおまかなイメージは、ブルーレイディスクなどと同じではないでしょうか。ブルーレイディスクや録音機器には、私的録音録画保証金制度により、保証金が上乗せされています。その保証金が一定の割合で、著作者に還元されており、同じような仕組みになるのかと思われます。

 

6.まとめ

 

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キャラクター自体は著作物の対象にはなりませんが、キャラクターの絵は著作物です。キャラクターの絵については創作と同時に著作権が発生します。そして、キャラクターの絵をもとにコスプレ衣装を制作すると、複製権、翻案権(著作権の一部)が関わってきます。一方、著作権制限規定があるので、コスプレ衣装を着て渋谷の交差点などを歩くことは非営利かつ料金を受けない場合には、上演権(著作権の1つ)を侵害しません。それでも、複製権、翻案権については対象ではないので依然として侵害が問われる状況にあります。これを解消すべく、新なルールの制定が急がれています。

 

短めの報道でしたが、ほんの一部の話(赤枠部分)しかされていませんでした。なるほどと思えるところがあれば嬉しいです。

意匠&商標「『レクサスのグリル』は『エバラ焼肉のたれ』を超えるか?」【MI】

こんにちは。

2021年も1ヶ月が過ぎました。あっという間ですね。今日も楽しく知財についてのお話を書いていきたいと思います。

さて前回、サランラップの例を挙げて「意匠×特許」について書いてみました。おかげさまで大変好評いただき感謝です。やはりいろいろな権利を絡めて考えるのは面白いですし、何よりお得(一石二鳥)!

ということで、今回は予告通り「意匠×商標」について考えてみたいと思います。


discussiong1.hatenablog.com

 

「意匠」×「商標」=「立体商標

異なる概念であるはずの「意匠」と「商標」はどこで交わるのでしょう?

意匠制度の主な保護対象は「物品の外観」です。一方、商標法は保護対象として、文字、図形、記号等の他に「立体的形状」を挙げています。

要するに、「物品の外観」である「立体的形状」は、商標として登録される可能性があるんです。そしてなんと言っても商標として登録されることのメリットは、「更新によって半永久的に権利を存続できる」というところです。(これに対し、特許は出願から20年、意匠は出願から25年で存続期間が満了します。)

このような商標を「立体商標」と言います。立体商標の登録例としては、以下のものがあります。

 f:id:discussiong1:20210205175720p:plain 出典:商標登録第5225619号公報

 f:id:discussiong1:20210205180005p:plain 出典:商標登録第5384525号公報

 f:id:discussiong1:20210205180052p:plain 出典:商標登録第5674666号公報

どれもその「立体的形状」を見るだけで、どの商品か分かるのではないでしょうか。

 

立体商標」登録のハードル ~エバラ焼き肉のたれ~

「じゃあ、立体的形状は全部、意匠じゃなくて商標として登録すればいいじゃん!」と思いますよね。しかし「立体商標」として登録されるにはハードルがあるんです。これは、商標法が保護対象として「立体的形状」を挙げつつも、「商品等の形状」については、原則「識別力がない」、「特定の者に独占させるのは適切でない」として登録を認めないからです(下記【参考】参照)。

そして、その例外として『その立体的形状が、特定の者の商品を示すものとして「周知」である場合に、登録を認める』のが基本的な運用なんです。

 

【参考】令和2(行ケ)10076「要旨」より

https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/905/089905_point.pdf

・・・商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美観をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって,その反面として,商品・役務の出所を表示し自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少なく,需要者としても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美観を際立たせるために選択されたものと認識するものであり,出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。また,商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを必要とし,その使用を欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないといえる。・・・

 

要するに、『「立体商標」として認めて欲しければ、その立体的形状を見てみんなが「あ、あの商品だ!」と思うほど有名になってからにしてね』ということです。

そして最近、「エバラ焼き肉のたれ」はこのハードルによって登録を阻まれてしまいました(令和2(行ケ)10076:知財高裁R2/12/15判決)

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出典(左):黄金の味 甘口 | エバラ食品 (ebarafoods.com)

出典(右):令和2(行ケ)10076「要旨」(上記URL参照)

 

意匠登録から「立体商標」を目指す ~レクサスのグリル~

これに対して「レクサスのグリル」は、「意匠制度」を利用して「立体商標」の取得を狙っているようです。どういうことでしょうか?

トヨタ自動車は、2012年に以下の意匠登録を取得しました。

意匠登録1443400(出願日:2011/1/7、登録日:2012/5/11)

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そして、2019年に以下の商標出願をしました。

商願2019-101336(出願日:2019/7/25)

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おそらくトヨタ自動車は、「レクサスのグリル」の立体的形状について、先ず意匠権による保護を確保し、その意匠権の存続期間中に「周知性のハードル」をクリアしようと考えたのではないでしょうか。そして、満を持して2019年に上記の商標出願をしてきたということが考えられます。

商標出願は現在審査中ですが、「レクサスのグリル」は「エバラ焼き肉のたれ」が超えられなかったハードルを超えて登録になるか?注目したいと思います。

 

立体商標」の落とし穴!? ~TABIOの五本指ソックス~

今回「立体商標」について調べている中で、こんな「立体商標」を見つけました。

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出典(左):商標登録第6255004号

出典(右):商標登録第6255006号

 

私も愛用している「TABIO」の五本指ランニングソックスです。

ここまで読んでいただいた方なら「これは五本指ソックス業界にとっては脅威の権利では!?」と思われるかもしれません。 しかし、よく見ると登録商標の中に「文字部分(TABIO)」があります。このような場合、例えば「文字部分」をメインに登録が認められた可能性があります。そうすると、「文字部分」を除いた「靴下自体の形状」や「滑り止めゴム部分のパターン」が似ているだけでは、商標全体としての権利侵害は認められない可能性が高くなります。

強い「立体商標」の権利が欲しい場合、余計なもの(文字や記号など)は入れないように注意しましょう。

ただ、ここから頑張って、「靴下自体の形状」や「滑り止めゴム部分のパターン」に識別力を持たせることができれば、強い「立体商標」として使えるようになるかもしれません。その可能性を求めて、一旦(「文字部分」を含めたもので)登録を受けておくという意味はあるかもしれません。

 

おわりに

お読みいただきありがとうございました!最後に今回のまとめをしてみます。

 ・意匠(立体的形状)を商標(立体商標)として保護できる

  ⇒商標権なら半永久的に存続させられる!

 ・「立体商標」が認められるにはハードルがある

  ⇒その立体的形状が自分の商品と繋がるよう努力を!

 ・他の権利(意匠権)を利用して「立体商標」を目指す

  ⇒意匠権の存続期間中にハードルを超える!

次回はここまで3回にわたってお送りしてきた「意匠シリーズ」の最終回として、「意匠×著作権・不競法」について書いてみたいと思います。よろしくお願いいたします!