皆様こんにちは。
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以前、以下のような記事を書かせていただきました。
discussiong1.hatenablog.com
本日は、上記の記事に少し近い内容ですが、研究者であるわたくしが特許を出す上で意識していることについて書きたいと思います。
私は研究が本業であるため(一応、弁理士資格も持っています)、学術論文を書くことが多く、特許を書くときにもつい同じような感覚で書いてしまいそうになります。そんな時は、意識して頭のなかを
「学術論文」脳から「特許」脳
に切り替えるようにしています。
具体的には、下記のようなことを意識しています。
<データの質について>
学術論文と特許明細書では、それぞれに求められるデータの質に違いがあります。
「知識の蓄積・継承や科学技術の発展」などを目的とする学術論文では、客観的で厳密なデータが求められます。例えば、ある研究者が「化合物Xが遺伝子Aの発現を促進すること」を発見し、それを証明したい場合、
● n数(サンプルサイズ)は十分か?
● 統計的に有意な差が出ているか?
● 化合物Xの効果に濃度依存性はあるか?
● 内部標準を用いて遺伝子の発現レベルを補正しているか?
● 遺伝子Aの発現は、mRNAレベルだけではなく、タンパク質レベルでも促進されるか?
等といった厳密なデータが求められます(雑誌やレビュアーによっても変わりますが)。
一方で、『ビジネス上の参入障壁の形成』が主目的である特許明細書ではそこまでの厳密なデータは求められず、「新規性」や「進歩性」などの一定の要件を満たせば、n数が1であったり、統計的な有意差については証明しなくても登録される可能性があります。
このように、学術論文と特許明細書では、それぞれに求められるデータの質に違いがあります。そこで、この違いを意識して、特許をとるために必要なデータさえ揃えば、あまり余計なデータを加えることなく早め早めの出願を心がけています(特許は早いもの勝ちなので)。
<権利範囲を広げる工夫>
上記の通り、特許においては、学術論文ほどの厳密なデータは必要ありません。一方、特許出願人にとっては、権利範囲の広さの方こそ重要であるため、その範囲を広げることを意識しています。例えば上記の例でいえば、化合物Xの類縁化合物などでも実験を行い、クレームを拡張できないか(上位概念化できないか)検討する、同様に遺伝子Xだけでなくそのファミリー遺伝子でも検討する、などなど。こうした作業は、学術論文であれば基本的には必要のない作業ですが、特許的にはとても重要な部分です。
<特許になる可能性を高める工夫>
化合物Xの類縁化合物でも実験を行って、各化合物間で効果の程度に差があれば(遺伝子Aの発現促進効果)、その中の効果の高い化合物について特に進歩性を主張しやすくなります。
また、他の化合物との併用効果(例えば化合物Xに加えて別の化合物Yを加えると効果がより一層顕著になるといった効果)も進歩性の主張には有効です。この場合、化合物X単体よりも権利としては狭くなりますが、X及びY両方を含む構成として権利化できる可能性があります。このように、出願当初明細書に、効果の程度に強弱のついた様々なバリエーションのデータがあれば、拒絶理由通知書への対応の際に後々役立ちます。ここだけは絶対特許化したい!という落とし所のような所も準備したりもします。
<研究力のアピールツールとしての特許の活用について>
一般的に、企業の研究力をアピールする際のニュースリリースとして学術論文や学会発表等が用いられることがありますが、特許取得のリリースもなかなかインパクトがあると思います。「〇〇社、〇〇技術について特許を取得!!」などのリリースは、一般の方がみるとなんだかすごそうに見えます。国際特許取得!なんて記事があれば、学術論文よりすごそうと感じる人もいるかも知れません。
上述のように、特許は書き方次第ではありますが、権利化自体(特許査定、論文でいえばアクセプト)のハードルはそこまで高くありません。会社の新商品や新サービスの開始のタイミングに合わせて、特許取得のリリースなどを行えば、いいアピールになると思います。早期審査の制度などを使えば、タイミングもうまく合わせられそうです。最近はこのようなことも意識しながら特許を書いています。
<まとめ>
以上、色々と書きましたが、研究者が特許業務に関わるときには、普段使っている「学術論文」脳を「特許」脳に柔軟に切り替えて臨む必要があると感じています。
最後までお読みいただきありがとうございました!!